研究課題
自己免疫疾患の発症因子の中でも環境因子を起点とした免疫トレランスの破綻は極めて複雑で、その詳細なメカニズムは不明な点が多い。生体内で、加齢、性ホルモンの変動、メタボリズム異常などの環境の変化が免疫トレランスの維持機構に大きな影響を与えるものと考えられている。本研究では、環境因子変動モデルと自己免疫疾患モデルの複合モデルを応用し、自己反応性獲得機構を多角的なアプローチから詳細に検討する。加齢と自己免疫に関連して、シェーグレン症候群の疾患モデルの一つであるaly/alyマウス(NIK遺伝子変異)を用いて、加齢に伴って増加するメモリー型のCD4陽性T細胞が標的臓器に浸潤する機構を探索すると、ケモカインの一つであるCXCL12及びその受容体であるCXCR4を介した反応が重要であることが判明した(投稿準備中)。一方で、加齢に伴って変動する自己抗体の産生機構に関しても探索中である。性ホルモンと自己免疫に関しては、妊娠期のマウス胸腺を用いた遺伝子の網羅的解析により、マクロファージのIGFBP5を同定した(J Oral Health Biosci. 2017 in press)。現在、IGFBP5ノックアウトマウスを用いた免疫系への影響を検討中である。一方で、環境ホルモン受容体の一つであるAhRを介した単球/マクロファージ/破骨細胞系の分化に関する結果を報告した(J Immunol 2016)肥満と自己免疫に関しては、高脂肪食をシェーグレン症候群疾患モデルに与えたときの、唾液腺における遺伝子変化を網羅的に解析した結果から、現在いくつかの因子に絞り込み詳細な機能解析を実施している。
2: おおむね順調に進展している
加齢と自己免疫に関しては、T細胞、B細胞あるいはマクロファージそれぞれの自己免疫疾患に関与する因子の同定を目指しており、T細胞に関しては具体的に見出し、その因子を用いた治療法の開発の可能性に関して検討を進めており、計画以上の成果が期待できる。B細胞系に関しても、加齢に伴う自己抗体の産生機構に関して、疾患モデルを用い、詳細に検討を進めており、次年度には成果を報告できるものと考えられる。性ホルモンと自己免疫に関しては、妊娠期というエストロゲンが低下した状態における胸腺に焦点を当て、ユニークな因子の同定ができた。さらに、同定因子と免疫システムとの関連性あるいは自己免疫疾患の発症との関係を探索中であり、大きな成果が期待できる。実際の自己免疫疾患との関連性を裏付けるデータを様々な角度から探索する必要性がある。メタボリズムと自己免疫に関しては、免疫システムだけではなく標的臓器における末梢トレランス破綻に焦点が当てられた結果が得られており、次年度には成果を報告する予定である。メタボリズムと免疫システムに関しては多くの報告があるため、自己免疫疾患の発症機序に結びつくような内容に絞り込む予定である。以上のように、多角的なアプローチよって環境因子と自己免疫疾患に関する大枠を明らかにできていることから、概ね順調に進んでいるといえる。
前年度までに加齢、性ホルモン、メタボリズムによるそれぞれの免疫細胞におけるキーとなる分子、シグナル伝達、遺伝子、エピゲノム変化など自己反応性獲得に重要な要因を絞り込む。それぞれの環境因子による各免疫細胞に複数の機序が想定される。前年度の結果から、加齢変化に伴う各免疫細胞における自己反応性獲得機序仮説を立て検証作業に入る。遺伝子組み換えマウスによる評価が可能な場合は、Cre-loxpシステムなどを応用して細胞特異的な遺伝子組み換えモデルの作成、検討を実施する。すでに、申請者の研究室ではCD4-Cre、CD11b-Creマウスを維持しており、組み換え体の作成、遺伝子導入、生殖技術など準備はできている。キー遺伝子の発現やエピジェネティックな変化など加齢的な動態を種々の方法で検討し、自己反応性獲得機序仮説を検証する。T細胞、B細胞、自己抗体、マクロファージを基軸にした自己免疫疾患機序に関する内容を今年度に探索する。絞り込んだエストロゲン関連遺伝子であるIGFBP5の胸腺マクロファージでの発現時期、局在あるいは機能に関してin vivoあるいはin vitroの多角的なアプローチにより解析を進める。すでにIGFBP5遺伝子ノッックアウトマウスの準備は進んでおり、性ホルモンと免疫システムとの関連性を丹念に検討する予定である。肥満に伴ったイムノメタボリズムの異常から自己反応性獲得機序仮説を立てた上で、前述の細胞特異的な遺伝子組み換えモデルなどを用い、詳細な検証作業に入る。すでに、肥満に伴う脂肪組織のM1マクロファージと自己免疫疾患の関係を報告していることから、マクロファージに関しての自己反応性獲得機構は先行して研究を進める予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (14件) (うち査読あり 12件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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