研究課題/領域番号 |
16H02703
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
甲斐 憲次 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (50214242)
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研究分担者 |
杉本 伸夫 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, フェロー (90132852)
牧 輝弥 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (70345601)
星野 仏方 酪農学園大学, 農食環境学群, 教授 (80438366)
竹見 哲也 京都大学, 防災研究所, 准教授 (10314361)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アジアダスト / バイオエアロゾル / 環境レジームシフト / ゴビ砂漠 / モンゴル草原 / ライダー |
研究実績の概要 |
本研究では、アジアダストの発生とそれに関わる環境レジームシフトのメカニズムを解明するために、平成26-28年度JSPS研究拠点形成事業「アジアダストと環境レジームシフトに関する研究拠点の構築」(コーディネーター:甲斐憲次)で整備した研究拠点ネットワークを活用して、前年度同様、発生源地域のモンゴル草原・ゴビ砂漠および風下側の北海道・能登半島等で集中観測(IOP-2017)を実施した。 IOP-2017では、名古屋大学の甲斐・河合、金沢大学の牧、酪農学園大学の能田は、モンゴル気象環境監視庁(NAMEM)および情報・気象水文環境研究所(IRIMHE)と協力して、ゴビ砂漠中央部に位置するダランザドガド気象台でアジアダストの集中観測を行った。さらに、ウランバートルからダランザドガドまでの600kmを自動車で移動観測して、ダストと気象要素の水平分布を観測した。酪農学園大学の星野のグループは、サインシャンドおよびホスタイ国立公園で植生調査を行った。長期間の植生分布と降水量の変動の解析から、レジームシフトが発生している地域を特定した。 東アジアの広域にわたる地域で大規模なダストイベントがIOP2017期間中の5月に発生した。5月7日には日本全国でアジアダストが観測された。ひまわり8号DUST RGBと研究拠点ネットワークを活用して、このダストイベントの発生と輸送のプロセスを解明した。 アジアダスト・バイオエアロゾル・環境レジームシフト(A-B-E)に関する国際ワークショップを11月3日-5日、名古屋大学環境総合館で開催した。活発な研究発表が行われ、最終日のビジネスミーチングでで、A-B-Eに関する専門書の出版計画が合意された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)IOP-2017の成果: 特筆すべきは、IOP2017期間中の5月、東アジア広域で大規模なダストイベントが発生し、7日には日本全国でアジアダストが観測されたことである。名古屋大学を中心とする研究グループは、現地の地上ライダー(シーロメーター)とひまわり8号Dust RGBを用いて、モンゴルのゴビ砂漠から風下の日本に至るまでのダストの発生・輸送過程を高時空間分解能で解析した(Minamoto et al., 2018)。この研究により、従来から知られていたゴビ砂漠のほかに、ホルチン砂地(内モンゴル、砂漠化地域)も主要な発生源であることを発見した。 名古屋大と国立環境研のグループは、ゴビ砂漠に展開するライダーネットワークを用いて、ダランザドガドで発生したダストストームが風下流側のサインシャンド(ゴビ砂漠の東端)、ザミンウド(中国国境沿い)に進む過程で、大気境界層に滞留していたダストが寒冷前線面上を上昇して、自由対流圏に輸送されることを示した(Kawai et al., 2018)。 2)環境レジームシフト: 酪農学園大学の星野のグループは、サインシャンドおよびホスタイ国立公園で植生調査を行った。さらに、長期間の植生分布と降水量の変動の解析から、降水があっても植生が回復しない地域、すなわちレジームシフトが発生している可能性が高い地域を見出した。 3)研究成果の発表: アジアダスト・バイオエアロゾル・環境レジームシフトに関する国際ワークショップ(A-B-E)を11月3日-5日、名古屋大学環境総合館で開催した。参加者は7カ国(中国、モンゴル、イギリス、スペイン、ドイツ、チュニジア、ニュージーランド)、50名で、計41件の論文が発表された。最終日のビジネスミーチングでは、A-B-Eに関する専門書の出版計画が合意された。
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今後の研究の推進方策 |
1)IOP2018の実施 春季のほか下記にも集中観測を実施する。春季のIOPは、例年通り、名古屋大学、金沢大学、酪農学園大学等で実施する。2016年と2017年は春季にダスト係留気球による観測を行ったが、強風による深刻なトラブルが発生した。2018年度は、風の穏やか夏季に実施して、エアロゾル粒径分布、バイオエアロゾルの高度分布を観測する。成功すれば、発生源地域における初めての観測例になる。この観測に合わせて、シーロメーターの同時観測を行い、粒径別ダスト数密度と後方散乱係数の関係を解明する。 さらに、夏季のIOPでは、シーロメーターの重なり関数(レーザー光線の広がりと望遠鏡視野の関係)を正確に決定するため、試験観測を行う。観測窓の上に45度の傾きをもつ鏡を置き、水平方向の一様性を仮定して、重なり関数を決定する。この試験観測をダランザドガドとマンダルゴビで行う。試験観測は、大気混合層が十分に発達する夏季に行う。この観測が成功すれば、地上付近から高度200mまでの後方散乱信号を正確に推定することができる。 2)バイオエアロゾの観測と解析 夏季に、ダスト係留気球を用いて、ゴビ砂漠上のバイオエアロゾルの高度分布を解明する。砂塵嵐発生時と通常時の代表的な細菌群の構成を明らかにする。また、バイオエアロゾルとして長距離輸送される可能性がある細菌群を特定する。 3)草原のレジームシフト 前年度、長期間の植生分布と降水量の変動の解析より環境レジームシフトが発生したと推定した。2018年度は、さらに調査を進め、この発見を検証したい。
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