研究課題/領域番号 |
16H02715
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山田 勇 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 名誉教授 (80093334)
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研究分担者 |
赤嶺 淳 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (90336701)
市川 昌広 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 教授 (80390706)
平田 昌弘 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (30396337)
長津 一史 東洋大学, 社会学部, 准教授 (20324676)
鈴木 伸二 近畿大学, 総合社会学部, 准教授 (10423013)
飯塚 宜子 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 研究員 (60792752)
内藤 大輔 京都大学, 農学研究科, 特定准教授 (30616016)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 生態資源 / 東南アジア海域社会 / 牧畜 / 沈香 / 茶 / モンスーン区 / 先住民文化 / マツタケ |
研究実績の概要 |
本年度の実績でもっとも重要なものは研究分担者一同による共著書『生態資源-モノ、場、ヒトの生きる世界』)(昭和堂)の出版である。これまでの科研の研究の一部をそれぞれがまとめている。現実のフィールドワークについては、山田はインドネシアパプア州の旧フォーヘルコップ半島の内陸部の沈香を調査し、これまで未知であった世界を明らかにした。またバングラデシュの270年の歴史を持つ沈香栽培の歴史を実地調査した。さらに中国雲南省のプーアール茶栽培の現状を現地調査した。ユーラシア大陸では平田とともに国際シンポジウムを立ち上げ、バルカン半島の牧畜文化生態について旧ユーゴスラビア地域の調査を行った。長津はバジャウの調査を続けるとともに、『国境を生きる―マレーシア・サバ州、海サマの動態的民族誌』(木犀社)を出版した。赤嶺はマツタケの調査を行うとともに、国連食料農業機関(FAO)で開催された第6回CITES附属書掲載提案レビュー専門家会合に出席し、ナマコ提案書(CoP18 Proposal 42)のレビューとアセスメントを行った。平田はバルカン半島とヨーロッパでの熟成チーズの発達を調査し、レンネット利用から塊型非熟成チーズへの展開を跡づけた。鈴木はベトナムのドンズイ村での調査を継続し、ベトナム戦争後の生態資源の変化を追っている。内藤は森林認証制度のマレーシアでの実態を追い続け、同時に泥炭湿地村に沈香を植林する作業をはじめている。飯塚はフィリピンのコルディエリエラ地域の先住民らによる伝統的な技術と文化を捉えなおす演劇の実践に参加、調査し、伝統の継承の在り方について調査した。市川はマレーシアの過疎の問題を追い、急激な過疎化が進んだサラワクの実態を明らかにしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本科研の目的は東南アジアとユーラシア各地との生態資源の攪乱の比較研究を目指しているが、これまでの進捗は予想以上と評価できる。その理由はまず、3年目に編集本が出版できたことである。通常、こういったまとまりのある本は科研の期間が終わったあとに出版されるものであるが、今回は予想以上に早く出版でき、その成果を世に問うことができた。次にこのテーマに沿った単著がすでに3冊出版され、それを軸に各人が新たなプロジェクトを立ち上げて、サテライト的に動いていることである。 赤嶺淳の『ナマコを歩く』、平田昌弘の『ユーラシア乳文化論』、そして長津一史の『国境を生きる』の3冊は、いずれも20年以上にわたるフィールドワークの結果から新たな報告を示したもので、もっとも顕著な貢献といえる。 さらに単著の型はとっていないが、共編著本の出版も相次いでおり、論文執筆、学会発表も順調に行われ、いずれは各メンバーが単著を書くことが期待される。 このような調査研究には国際的なつながりと息の長い共同調査研究の遂行が不可欠であるが、この点に関してもパートナー組織とMOUを結び、しっかりとした基盤の上で研究活動を行っている。 さらにワシントン条約などの国際会議への参与も行われ、赤嶺淳は定期的に鯨やナマコなどの関連会議に参加して重要な役割を果たしている。内藤はCIFORと協働研究を行い泥炭湿地村やシベリアでの研究の中心的役割を担っている。以上の観点から本研究課題の自己評価としては順調に遂行していると結論づけてよいと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
山田はインドネシアのマタラムにおいて国際シンポジウムに出席し、沈香研究について成果発表を行う。またパプア、カリマンタンの沈香調査、中国では長白山、黄山、福建省の生態資源調査、さらにユーラシアではスイス、オーストリア、ベルギーの生態資源調査を行い、ユーラシア大陸全体のしめくくりの調査とする。赤嶺はオレゴン州におけるマツタケ採取の歴史を、個人史からあきらかにし、サプライチェーンに関する報告をThe 10th International Workshop on Edible Mycorrhizal Mushroomsでおこなう。また30年ぶりに再開される沿岸捕鯨の調査を釧路市もしくは八戸市において実施する。またコロンボで開催されるCITES CoP18に参加し、熱帯産ナマコ4種の附属書掲載提案の議論を傍聴する。平田はスイス・オーストリアにおいて現地調査を行い、欧州牧畜の土台を形成した移牧について生業論的・生態論的に調査しその発達史の調査研究を行う。市川はサラワク州中上流域を調査し、農村と都市の間の移動に関わる課題と対応について調査を行う。内藤はサバ州のキナバタンガン河における森林産物利用の変遷について調査を行う。飯塚はフィリピンルソン島コルディリエラ地域における地元NGOらと協働した演劇による地域表象の動態について継続調査を行う。鈴木はベトナム、クアンニン省ティエンイエン県ドンズイ村における世帯調査を継続する。長津はインドネシア・東ジャワ州および南スラウェシ州における、粗放型・集約型双方のエビ養殖の展開に関するフィールド調査や、マレーシア・サバ州のバジャウ集落において海民経済の20年史に関する聞き取り調査をおこなってきたが、北欧ハンザ同盟地区の海洋商業ネットワーク、および南東スラウエシ州のバジャウ移民の海産物ネットワークについて継続して調査を行う。
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