研究課題/領域番号 |
16H02729
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
關 雄二 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 教授 (50163093)
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研究分担者 |
坂井 正人 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (50292397)
瀧上 舞 山形大学, 人文社会科学部, 学術研究員 (50720942)
鵜澤 和宏 東亜大学, 人間科学部, 教授 (60341252)
井口 欣也 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (90283027)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 考古学 / 文化人類学 / 文明 / 権力 / 社会的記憶 |
研究実績の概要 |
ペルー北高地に位置するパコパンパ遺跡において発掘および、出土遺物の分析を行った。発掘については住居遺構の検出をめざした。神殿活動を支えた集団の特定が目的である。具体的には、パコパンパ遺跡の東部に位置し、表面観察からは遺構が目視できない平坦部を選んだ。その結果、住居址というよりも、広場のような開放空間として利用されたことが判明した。当初の推測とは異なる結果ではあったが、逆に、祭祀活動が空間的に連続していることが明らかになった点は大きな収穫といえる。 また遺物分析については、遺跡周辺部の土器分析を行い、その結果、社会的なリーダーが出現した点が検証されている形成期後期(前800年~前500年)に祭祀活動の範囲が縮減していることを突き止めた。権力の生成が祭祀空間の拡大とは比例していないことになる。 出土動物骨については、炭素、窒素、ストロンチウムの同位体分析により、形成期後期に遺跡周辺でラクダ科動物を飼育し、饗宴において消費された点が明らかになった。さらに人骨資料については、儀礼的な暴力行為のパターンがある点をつきとめた。この成果は米国の電子ジャーナルに掲載され、アンデス文明史上、もっとも古くまた確実な事例として国内外の学界で注目された。社会的記憶が生成される機会として注目してきた儀礼という反復的行為の中に、暴力が組み込まれていた点が明らかになった点は重要である。なお人骨のDNA分析については、DNAの残存状態を図る予備的な分析を行い、良好な保存状態にあることがわかった。 これらの成果は、日本をはじめ米国、セルビア、ペルー、アルゼンチンにおける国際学会や集会において発表するとともに、内外の研究誌に投稿し、受理されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はミクロ・レベルとマクロ・レベルの研究よりなる。ミクロ・レベルの研究は、ペルー北高地に位置する巨大な祭祀遺跡パコパンパの考古学的発掘と、そこから出土した遺物の多角的分析よりなる。本年度は、これまで未調査だった遺跡周辺部の発掘を実施し、祭祀空間が連続していることをつかんだ。また遺物の分析からは、同遺跡の利用の後半にあたる形成期後期において、祭祀空間の範囲が縮減する点、ラクダ科動物を飼育から消費に至るまで統御し、饗宴を含む儀礼に組み込んでいた点、人間を対象とした暴力行為が儀礼の一部として実践されていた点などが判明した。 これまで、形成期後期に登場する権力者が、自らの過去にあたる形成期中期の遺構を踏襲し、再利用することで、時間的連続性を強調する社会的記憶を生成させ、それを社会統合に利用したことが推測されてきた。しかしながら、そうした継承の空間で具体的にどのような儀礼が執り行われてきたのかについては、不明な点が多かった。本年度の調査と分析の結果は、遺構における継承性とは反対に、ラクダ科動物、暴力といった新規の要素が儀礼に導入されていたことを示している。いいかえれば、この異質な新要素を受容させるがために、空間の継承性を図ったともいえる。この点は、社会的記憶の生成が複雑な過程を経ていることを示唆するものであり、次年度の研究の方針を立てる上で多いに役立つ。 一方でマクロ・レベルは、パコパンパ遺跡のデータと同時代の遺跡におけるデータとの比較が主となる。当初の予定通り、本年度末には公開の研究集会や国際集会を開催し、権力生成における社会的記憶の利用方法に多様性が認められることを確認した。さらには、研究分担者や研究協力者が各自、国内外の学会や国際集会において成果を発表し、とくに暴力に関する論文の発表は国内外で注目された。 以上の点から、研究はきわめて順調に進行していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで権力の生成について、おもに権力者の視点から社会的記憶の利用を考察してきた。そこには、権力を行使する側が、みずからの過去を築き、利用していく様相をミクロ・レベルの研究によって実現してきた。次年度も、この点におけるデータを積み上げていく作業は継続していきたい。具体的には、パコパンパ遺跡より出土した土器、石器、骨器、金属器、人骨、獣骨などの遺物の分析を多角的に行う予定である。 さらに次年度では、本格的なDNA解析を開始する。これは、権力の生成において、人間の系譜関係、血縁関係が基礎となったかどうかについて科学的に実証するためである。2009年にパコパンパ遺跡で発見された通称「パコパンパの貴婦人の墓」と2015年に発見された「ヘビ・ジャガー神官の墓」とでは、100年の単位での時間的差異が存在するにもかかわらず、埋葬の方法と過程に著しい類似が認められ、貴人に対する埋葬儀礼の継承が推測されている。ところが、実際の貴人同士の関係については、血縁関係にあったのか、同一集団であったのかなどの疑問に答えることができなかった。その意味でもDNA分析を行う意義は大きい。 また、次年度は、未発掘の半地下式パティオの調査にとりかかる。2015年度に発見した饗宴の痕跡は、半地下式パティオからのものである。別のパティオにおいても同様の饗宴が行われていたのか、あるいは異なる機能をもっていたのかを知ることで、祭祀空間内での人間の実践活動の実態についてさらなるデータの蓄積が可能になる。 これらの研究の成果は、国内外の学会・研究集会で発表するとともに、国際学術誌への投稿を積極的に行っていく予定である。さらには、マクロ・レベルの研究を進めるために、国内外で研究集会を組織していくことを計画している。
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備考 |
本プロジェクト全体に関する報道としては、読売新聞(2017/5/3朝刊)、毎日新聞(2017/6/1夕刊)、国際ジャーナルに掲載された儀礼的暴力に関する論文についての報道としては、朝日新聞(2017/9/29朝刊)、日本経済新聞(2017/9/29朝刊)、読売新聞(2017/9/29夕刊)、神戸新聞(2017/10/2夕刊)、毎日新聞(2019/10/19夕刊)などがあった。
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