研究課題/領域番号 |
16H02757
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中務 真人 京都大学, 理学研究科, 教授 (00227828)
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研究分担者 |
仲谷 英夫 鹿児島大学, 理工学域理学系, 教授 (20180424)
鍔本 武久 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 教授 (20522139)
森田 航 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (20737358)
実吉 玄貴 岡山理科大学, 生物地球学部, 講師 (50522140)
荻原 直道 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (70324605)
國松 豊 龍谷大学, 経営学部, 教授 (80243111)
酒井 哲弥 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (90303809)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 人類進化 / 中新世 / アフリカ / 化石 / 類人猿 / ナカリピテクス / オナガザル科 / 競合 |
研究実績の概要 |
本計画は、1000 万年前のナカリ層 (ケニア共和国)の発掘調査によって、後期中新世のアフリカで発生したと予想されているオナガザル科と他の狭鼻類との競合、前者による後者の置換、さらにそれに由来したと推定される現生アフリカ類人猿と人類の系統発生を解明することを目的としている。 2018年8-9月にナカリにおいて発掘調査を行い、約100点の資料を追加した。既存、新資料の分析について、主な成果は次の通りである。大型類人猿ナカリピテクスの臼歯エナメル象牙境の三次元的解析を進め、同時代ウーラノピテクスとの類似性を再確認した。ナカリピテクスではない大型類人猿の追加標本(上顎M3)に関して、他の化石大型類人猿との比較を行った。小型類人猿の記載では、直近の発掘で追加標本が見つかったことから、全標本を見直し特にニャンザピテクス亜科の再検討を進めた。ナカリ産のオナガザル科マイクロコロブスの完全頭骨を日本へ一時輸入しSPring-8で放射光撮影をした。古環境復元のため、化石齧歯類の食性推定を進めた。頬歯化石を用いた三次元形態解析を導入し、ナカリ齧歯類の中で卓越するナカリミス属を対象に予備的分析を行った。現生齧歯類との比較から、同種は植物食よりの雑食であると推定した。ナカリ層と同時代ケニアのナムルングレ層産ヒッパリオン(ウマ科)頬歯のメゾウエアを再検討し、同属であっても、より草食傾向の強いナムルングレ産とより葉食傾向のナカリ産に分かれ、それぞれの古環境の違いと対応することを再確認した。他の奇蹄類については、化石サイ類の系統分類見直しのためケニア産パラディケロス・ムキリイの全標本を検討した。またカリコテリウム類についてもその分類を検討した。 地質学関連では、ナカリ地域の地質情報を取りまとめ、新たな地質図を作成した。一部に修正するべき地点が残されているが、一般的に利用可能なレベルに達する図が完成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
継続的発掘調査により、化石資料数は順調に増えた。大型類人猿の資料は、数的に十分とは言えなものの、第三の大型類人猿の存在を示唆する標本も得られ、多様性についての情報は増えている。小型類人猿(これらをヒト上科に分類するかどうかについては専門家の間で意見は分かれるが)については新種記載を行う上で十分な資料が集まっている。記載論文を投稿して以降、追加資料が発見され、再検討が必要になったため、投稿を撤回し、大幅に修正した論文を作成し、投稿直前の状態である。霊長類以外のほ乳類についての記載、研究論文も着実に発表している。こうした分析の結果、ナカリの動物相リストは49種にまで拡大し、古環境の復元を行う基盤が整備された。2018年11月にオナガザル科マイクロコロブスの完全頭蓋骨を一時輸入し、SPring 8 でシンクロトロン断層撮影を行う事ができた。これにより、より高精度の内耳形状分析、頭蓋骨の変形修復とそれによる系統解析の見通しが立った。
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今後の研究の推進方策 |
2019年夏にも、これまでと同様に一月程度の発掘調査を行い、新化石資料の収集に努める。一方、ケニア国立博物館等において既存資料の記載と分析を進める。地質関係では、化石産地周辺の地質調査は基本的には完了している。さらに、地質図の微修正と若干の調査地域の拡大を行う。さらに、復元したナカリの古環境・古気候関係の分析をまとめる。シンクロトロンによるマイクロコロブス頭蓋骨の断層撮影は、本来2017年に予定していたがケニアの政治状況が混乱したため、一年遅れて実現した。最終年度である2019年度のうちに少なくとも予備的な結果は出せるように、力を注ぐ。安定同位体分析については、ケニア国立博物館の同意を得ることができたため、2019年7月にケニアでサンプリングを行い分析試料を日本に持ち帰り、年度内に一通りの分析を終える。これにより、霊長類コミュニティにおける環境利用と食性の多様性を直接的に検討する。
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