伐採や火災などの人間活動の影響によって東南アジアの森林は急速に消失・劣化し、地域経済や地域環境の深刻な問題となっている。一般に熱帯地域での森林再生は難しいが、その原因はよく分かっていない。近年、温帯域での研究によって、森林を構成する樹木の多くは菌根菌という根に共生する菌類に養分吸収の大部分を依存しており、樹木の定着や森林の回復に菌根菌が決定的な役割を果たしていることが明らかになってきた。研究代表者らのこれまでのプロジェクトによって、一部の熱帯樹木の菌根菌群集と実生定着への影響が明らかにされたものの、その知見は極めて断片的である。そこで本研究では、東南アジア地域において、攪乱から回復途上にある二次林を対象に、主要樹木に共生する菌根菌群集を明らかにする。 今年度はカリマンタン島のトリスタニオプシス林において確認された菌根菌について、その宿主を葉緑体DNAの塩基配列によって同定した。その結果、トリスタニオプシス属樹木に加えてフタバガキ科樹木も多数確認された。さらに、トリスタニオプシスとフタバガキは多くの菌根菌を共有していたことから、両者が共通の菌根菌と共生していることも明らかにされた。先駆種で撹乱にも強いトリスタニオプシスが土壌中に菌根菌を保持することで、後続樹木であるフタバガキ科に共生可能な菌根菌を提供し、更新を促進している可能性が考えられた。
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