研究課題
本研究は、熱帯林の三次元構造が生み出す枯死有機物(リター)の多様な空間分布に着目し、1.熱帯林の地上部と地下部で生じるリターの分解特性やリター分解由来のCO2フラックスを見積もる、2.生態系純炭素交換量、幹呼吸、土壌呼吸量、根呼吸量などの長期観測を継続し、分解による炭素動態の熱帯林の物質循環における位置づけを理解する、を目的としている。目的1についての本年度の主な実績として、リター分解実験を地上部と地下部で展開するための準備と予備実験を実施したことが挙げられる。目的2については、引き続き観測を続けるとともに、これまでの成果の一部をまとめてEuropean Geophysical Unionの年大会において発表した。発表した内容の概要は以下のとおりである。1.根系の分解とそれに伴う土壌呼吸の変化を明らかにするための土壌コア実験をした初期の成果を発表した。2.根系の枯死過程を解明するために、試験地に設置したスキャナボックスで土壌画像を連続的に撮影し、その解析法をマニュアル化した。3.土壌呼吸とその関連要因の多点計測を実施し、土壌呼吸の時空間変動量が地表リターの堆積状態に依存することを明らかにした。4.熱帯林の根系生産量と枯死量の空間変動と年変動を改良型イングロースコア法によって求めた。さらにこの大会では、Roots and rhizosphere processes in soil carbon dynamics in forested ecosystemsをオーガナイズし、地下部の炭素動態にフォーカスした成果発表と情報交換を関連研究者と行った。
2: おおむね順調に進展している
従来の観測を続けるとともに、新しくリター分解の実験を開始した。よっておおむね順調に進展していると言える。具体的には下記のような成果が得られている。1. 試験地にリターバッグを埋設し、半年置きに掘り取り調査を実施した。リターバッグを異なるメッシュで覆うなどの工夫を施したほか、中身のリターを、熱帯林を代表とする数種に絞り、菌根との共存関係の有無で分けるなど分解制御要因の解明に向けた実験デザインとした。2.根系リターバッグを封入した土壌コアを作成し、その上部において分解に伴って地表から放出するCO2放出量を測定した。リターバッグに入れる根は、細根と粗根に分けるとともに、土壌動物の侵入をコントロールできるように異なるサイズのメッシュで覆った。3.根系の枯死過程を解明するために、試験地に設置したスキャナボックスで土壌画像を連続的に撮影し、枯死量とその季節性を検討した。今年度は取得した画像の解析法を検討した。解析者のヒューマンエラーがもたらす影響を評価したところ、解析初期は個人差が大きいものの、次第に値が収束し、根系のフェノロジーが個人差を超えて取得できるマニュアルであることが示された。5.土壌呼吸の空間分布について、土壌動物の寄与を明らかにするため、アリやシロアリの巣からのCO2放出量とその周辺のCO2放出量の比較とその種間差を明らかにした。6.空中リターにアクセスするためにクレーンを操作する技術を学んだ。これらの成果の一部をEuropean Geophysical Unionの年大会において発表した。また、同大会においてRoots and rhizosphere processes in soil carbon dynamics in forested ecosystemsをオーガナイズし、関連研究との情報交換に努めた。
今後の研究として以下を予定している。1.リターバッグの掘り取り調査を引き続き実施し、データの取得を続ける。掘り取ったリターサンプルは化学分析などを実施し、乾重に加えて分解の指標として用いる。また、これまでに取得したデータを整理し、樹種間差、菌根の有無による違い、メッシュサイズによる違いなどを統計的に評価する。2.土壌コア実験について、得られた結果の統計解析を行うことで、分解に伴う根系サイズ、土壌動物、土壌環境の変化などを明確にする。またリター分解に伴う炭素放出量を算出し、土壌呼吸による炭素放出量と比較することで、地表からのCO2フラックスに対する根系分解の寄与率を推定する。3.分解による細根の構造変化について、染色による難分解性物質の分布とその種間差を検討するための手法に取り組む。4.これまでに取りためたスキャナ画像のデータを解析し、枯死の発生量及びパターンを空間的、時間的の両軸で評価し、年間当たり、ヘクタール当たりの枯死量の見積もりのための基礎データとする。枯死根のサイズ、発生場所とその時の気象データなどとを関連させて解析することで、枯死を引き起こす要因についても考察する。5.土壌呼吸の測定を継続するとともに、これまでの気象データを整理し、林床部の炭素動態に関するデータベースを作成する。6.空中リターから放出されるCO2放出量を測定し、これらのリターの分解の程度や制御要因を明らかにするためのデータを取得する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 5件)
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