研究課題/領域番号 |
16H02762
|
研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
大橋 瑞江 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (30453153)
|
研究分担者 |
松本 一穂 琉球大学, 農学部, 准教授 (20528707)
牧田 直樹 信州大学, 学術研究院理学系, 助教 (40723086)
片山 歩美 九州大学, 農学研究院, 助教 (70706845)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 熱帯林 / 炭素循環 / リター / 分解 / 地上部 / 地下部 |
研究実績の概要 |
本研究は、熱帯林の三次元構造が生み出す枯死有機物(リター)の多様な空間分布に着目し、熱帯林の地上部と地下部で生じるリター分解由来のCO2フラックスと生態系純炭素交換量、幹呼吸、土壌呼吸量、根呼吸量などを計測することで、生態系の炭素循環における分解プロセスのインパクトを評価することを目的としている。本年度は同試験地において、以下の作業を行った。 1.土壌圏での根系分解の特徴とその制御要因、土壌呼吸に対する寄与を明らかにするため、以下の3種類の実験に着手した。 (1) 根系リターバッグを作成し、試験地に埋設した。ここでは、分解の樹種間差、土壌動物の寄与、菌根の寄与の3点に着目し、それらの影響を分離できるように実験をデザインした。(2) 根系の分解とそれに伴う土壌呼吸の変化を明らかにするための土壌コアを設置、計測した。(3) 根系の枯死過程を解明するために、試験地に設置したスキャナボックスで土壌画像を連続的に撮影し、画像解析の手法、根系の生産量、枯死量とその季節性を検討した。その成果を根研究学会の研究集会等で発表した。 2.これまでに続けてきた土壌呼吸と生態系純炭素交換量の連続測定を引き続き実施し、生態系の炭素循環の経時的な変化量の取得を行った。また土壌呼吸の空間分布について、土壌動物の寄与を明らかにし、国際誌Applied Soil Ecology誌で発表した。 3.同試験地に設置されているクレーンを操作する技術講習会に出席し、クレーン操作によって林冠部の空中リター分解によるCO2フラックスを計測し、林床部の空中リターと比較した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究計画はやや遅れ気味であると判断される。各テーマの進捗状況は下記のとおりである。 1-(1)試験地にリターバッグを埋設し、半年置きに掘り取り調査を実施した。根系リターの分解を引き起こす要因を明らかにするため、リターバッグを異なるメッシュで覆うなどの工夫を施したほか、中身のリターを、熱帯林を代表とする数種に絞り、菌根との共存関係の有無で分けるなどの配慮を行った。掘り取り後のリターはCO2放出量の測定、乾重測定を行った。1-(2)根系リターバッグを封入した土壌コアを作成し、その上部には試験地で培養しながら地表から放出するCO2放出量を測定できるように土壌呼吸用のカラーを装着した。リターバッグに入れる根は、細根と粗根に分けるとともに、土壌動物の侵入をコントロールできるように異なるサイズのメッシュで覆った。1-(3)スキャナ画像から根系を抽出する一連の画像解析の手法をマニュアル化した。それを元に枯死根を抽出し、その季節性を確認した。その結果、熱帯での根の枯死は時間的変化を持つものの、明瞭な季節性を持たないことが明らかとなった。 2. 土壌呼吸の日変動を複数回、数日にわたって連続観測することに成功した。とくにこれまでのデータに欠落している夜間の土壌呼吸量とその変動特性を一般化するために、複数個所でのデータ取得を行った。 3. クレーンを用いて林冠部と林床部の空中リターの分解に伴うCO2放出量を比較したところ、両者には有意な差が見られないことが明らかとなった。 上記のように地下部の分解については複数の実験が展開され、順当な進展がみられるが、地上部のリター分解については、許可証の発行の遅れやクレーンの不調などから調査が遅れがちである。
|
今後の研究の推進方策 |
1-(1) リターバッグの掘り取り調査を引き続き実施し、データの取得を続ける。掘り取ったリターサンプルは化学分析などを実施し、乾重に加えて分解の指標として用いる。また、これまでに取得したデータを整理し、樹種間差、菌根の有無による違い、メッシュサイズによる違いなどを統計的に評価する。1-(2) 得られたデータを整理し、統計解析を行うことで、分解に伴う根系サイズ、土壌動物、土壌環境の変化などを明確にする。またリター分解に伴う炭素放出量を算出し、土壌呼吸による炭素放出量と比較することで、地表からのCO2フラックスに対する根系分解の寄与率を推定する。1-(3) 画像解析マニュアルに基づき、精度の高い根系動態抽出の手法について、個人差や画像サイズがもたらす影響を評価する。同時にこれまでに取りためたスキャナ画像のデータを解析し、枯死の発生量及びパターンを空間的、時間的の両軸で評価し、年間当たり、ヘクタール当たりの枯死量の見積もりのための基礎データとする。枯死根のサイズ、発生場所とその時の気象データなどとを関連させて解析することで、枯死を引き起こす要因についても考察する。 2. 夜間と日中の土壌呼吸の日変動を比較し、これまで日中の土壌呼吸値のみで推定されてきた地表からのCO2放出量について、より精度の高い推定を試みる。 3. 林床の空中リターから放出されるCO2放出量のデータを引き続き取得すると共に、これらのリターの分解の程度や制御要因を明らかにするためのデータを取得する。
|