研究課題
近年、地球温暖化に伴う夏季の猛暑が顕著であり、わが国の乳用牛が受ける暑熱ストレスによる生産性低下は解決すべき最も重要な課題のひとつとなっている。アジアなどの熱帯地域にはその土地の環境に適応した在来種のウシが存在し、それらは暑さに強い特徴をもつ。本研究は、東南アジア地域で飼育されているウシについて生理学的および遺伝学的解析を行い、それらのウシが暑熱ストレス耐性を有するメカニズムを解明することを目的とする。本年度は、名古屋大学カンボジアサテライトキャンパス内実験農場で飼育されているカンボジア由来およびタイ由来の乳用牛を対象として、ホルター心電計を用いた心拍変動解析により、ウシに負荷される暑熱ストレスの評価を行った。また、飼育環境に関するパラメーター(気温、湿度)およびウシ個体の生理状態に関するパラメーター(体温、呼吸数)の記録を行い、心拍変動解析による自律神経機能の評価との相関を検討した。暑熱環境下では体温が顕著に増加するとともに、心拍変動解析により交感神経系活性の上昇と副交感神経系活性の低下が認められた。これらの結果から、ホルター心電図記録による心拍変動解析法は、ウシに負荷される暑熱ストレス強度を評価するための非侵襲的手法として有効であることが明らかとなった。また、心拍変動解析により得られる各個体の暑熱ストレス耐性を指標として暑熱環境への適応度が異なる個体を抽出し、ウシSNPアレイを用いた網羅的遺伝子多型解析を実施するための事前準備を、カンボジア(王立農業大学)およびタイ(カセサート大学)において実施した。次年度以降に心拍変動解析およびゲノムDNAサンプルの収集を行い、カンボジアおよびタイの乳用牛との比較により、暑熱ストレス耐性に関与すると考えられるSNPの抽出に着手する予定である。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究計画では、まず、東南アジア地域(カンボジア、タイおよびフィリピン)で飼育されているウシを対象として、ホルター心電計を用いた心拍変動解析により暑熱ストレス耐性評価を行うことを目的とした。名古屋大学カンボジアサテライトキャンパス内実験農場で飼育されているカンボジア由来およびタイ由来の乳用牛を用いて、ウシのホルター心電図を記録する手技の確立が完了し、暑熱環境下における心拍変動の解析からウシに負荷される暑熱ストレス強度を評価することが可能であることを明らかにできた。次年度以降には、ホルター心電図記録による心拍変動解析法を用いて、東南アジア地域で飼育されている乳用牛の暑熱ストレス耐性を評価し、暑熱ストレス耐性に関与すると考えられるSNPの抽出に着手する。これにより、暑熱ストレス耐性の原因となる候補遺伝子の同定をめざす予定である。
本研究では、東南アジア地域のウシが暑熱ストレス耐性を有するメカニズムを解明することを目的として、①心拍変動解析による暑熱ストレス耐性評価法を確立して、暑熱環境下にあるウシの生理学的特徴を明らかにし、②カンボジア、タイおよびフィリピンの乳用牛を多数用いて、暑熱ストレス環境への適応度が異なる個体を抽出する。さらに、③ゲノムDNA試料を採取して網羅的遺伝子多型解析を行い、暑熱ストレス耐性の原因となる遺伝子の候補を同定することをめざしている。研究初年度は、心拍変動解析による暑熱ストレス耐性評価法の確立が完了した(①)。今後はこの評価法を用い、年次計画に基づいて暑熱ストレス環境への適応度が異なるウシ個体の抽出(②)と、ウシSNPアレイを用いた網羅的遺伝子多型解析(③)に着手し、東南アジア地域のウシの暑熱ストレス耐性の原因遺伝子の解明に全力をあげる。
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