研究課題/領域番号 |
16H02771
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
市原 清志 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授(特命) (10144495)
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研究分担者 |
村上 博和 群馬大学, 大学院保健学研究科, 教授 (40166260)
川口 鎮司 東京女子医科大学, 医学部, 准教授 (90297549)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 事実に基づく臨床検査医学 / 血液悪性腫瘍 / 膠原病 / 検査診断学 / 基準範囲 / 国際調査研究 |
研究実績の概要 |
事実に基づく臨床検査医学(EBLM)の実践に必要な、知識ベースとその利用環境の構築を目指した研究である。すなわち、H24~26年度に実施した、健常者の臨床検査値(基準値)の集積研究を発展させ、疾患別の臨床検査値(病態の基準値)を臨床病態情報と共に大規模に集積し、それを実臨床における検査診断、治療・予後の判断に活用できるようにする計画である。また、成果としての知識ベースから、健常群・疾患群における臨床検査値特性に国間差が存在するかどうかを解明でき、医療の国際化の観点から有用な情報が得られると期待される。H28年度は、国際基準値調査について、12ヶ国のデータを解析し、(1)統計処理法の選択で基準範囲設定値に大きな差異が生じること、(2)多数の検査で基準値に明瞭な国間差が存在すること、(3)BMIの検査値への影響に人種差が存在することなどを中間報告として公表した。一方、同調査への参加施設を順に訪問し、臨床症例バンク(Clinical Case Bank)を構築するCCBプロジェクトへの協力を求めた。H29年度は、基準値調査については、国別基準範囲に関する論文作成の支援と調査分析中の国々の支援を行った。一方、CCBプロジェクトに対しては、5ヶ国の協力が決まり、血液悪性疾患・膠原病中から5疾患について症例記録票とそれに対応したweb入力ページ開発を行った。倫理審査に時間を要したが、承認の降りた日本(3施設)・バングラディシュ(3施設)で、各疾患の症例集積を開始した。その中間解析結果を、国際臨床化学会世界大会で報告し、同プロジェクトの意義をアピールしたが、その本格的な症例集積はH30年からとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
国際基準値調査に関しては、H29年初旬に12ヶ国分のデータ解析から基準値の国間差に関する多数の新知見を見い出し中間報告したが、H29年度はケニア、バングラデシュ、ロシア、インド、中国、米国の基準値研究の論文作成を支援した。また、調査を終えたナイジェリア、ガーナ、エジプトのデータ分析を支援した。さらに、調査中のマレーシア、調査準備中のインドネシアの調査を支援した。一方、病態の基準値を集積するCCBプロジェクトに関しては、H28年度の努力で、南アフリカ、バングラデシュ、中国、インドの参加が決まった。これに伴い、血液悪性疾患(悪性リンパ腫ML, 多発性骨髄腫MM)、膠原病(SLE, 皮膚筋炎PM/DM, 強皮症SSc)に対する、症例記録紙(CRF)を協議して決定し、疾患別のWeb入力システム(eCRF)を研究代表者が作成した。しかし、倫理審査に予想外の時間を要し、すでにH29年度に承認の得られた、日本国内3大学とバングラデシュ3大学において症例集積をスタートした。そして、ML 277例、SLE 60例、SSc 416例を対象に一次分析を行った。その結果、予想外に興味深い臨床病態特性と検査値の関係が明らかとなり、その成果をH29年11月開催の国際臨床化学会(IFCC WorldLab 2017 in Durban)において、シンポジウムを企画しCCBプロジェクトの意義を提示し、参加協力を求めた。一方、50の個別試料よりなるパネル血清に対し30項目の臨床化学検査に対しての値付け作業を実施した。これにより、同試料を参加施設が共通に測定することで、同検査結果の国際比較を標準化に対応した形で行える体制が整った。
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今後の研究の推進方策 |
国際基準値調査に関しては、H30年度中に20ヶ国のデータが出揃う予定で、全デ―タに基づき再解析を行い、その成果をとりまとめる。これにより、H28年度に行った中間解析結果の再現性を確認するとともに、国間差のない検査項目については、世界共通の基準範囲を提唱する。また議論の多い各種基準範囲設定法を比較検証し、最適な方法について世界基準を提案する。並行して、参加国別に行う基準値の特性と基準範囲に関する論文の作成を引き続き支援する。特に、第2報目となるロシア、インド、ケニアの論文および南アフリカ、ガーナ、バングラデシュの論文を完成させる。また、各国の基準値データを統合したデータベースを作成し、それをWeb上で参照できるEBLMシステムの構築に着手する。 一方、CCBプロジェクトに関しては、参加国数をさらに増やすことは現時点では困難と判断している。このため、国際比較に重点を置くよりも、まずは国別に集積した症例の分析を行い、それからEBLMに有用なエビデンスを探索し、その成果を発表し研究の意義を唱えることがより重要と考えている。現時点では、多発性骨髄腫は、北京首都医科大学、群馬大学のグループが十分な症例数を有するので、一定の分析成果を期待できる。またMLについては、山口大学と群馬大学の症例を集積することで、中間解析で得た結果を固め成果を報告する。SLEに対しては東京女子医科大学および南アフリカのチームが十分な過去の症例を有しており、短期間で症例集積を行い、国別にその成果をまとめ報告することをめざす。その成果を受け、今後の研究の展開について協議すべく、H30年度末に研究班会議を開催する計画である。
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