2018年度は,(i) ポスト量子暗号として期待される暗号の安全性評価,(ii) 量子計算機実現後の現代暗号の安全性評価,(iii) 現実的な脅威の下での暗号の安全性評価,に関して研究に取り組み,成果を上げている. (i) ポスト量子暗号として期待されている格子暗号に対するより精密な安全性評価を与えた.特に最悪ケースに関する解析を与えており,安全に格子暗号を使う際の指標を与えている.さらに,別の候補ある同種写像に基づく鍵共有方式の拡張を行い,ラウンド数の少ない複数人鍵共有方式の提案に成功している.実装も行い,実用上十分高速であることを確認している. (ii) 量子計算機が実現した際に,どの程度現代暗号が脆弱になるかは,ポスト量子時代の暗号を考える上で極めて重要である.RSA暗号に関して,必要な量子的リソースおよびこれまで行われている物理実験の綿密な整理を行っている.この成果を,国際会議,および国内シンポジウムで招待講演を行っている. さらに,楕円離散対数問題は量子計算機を用いる多項式時間で解読できることが知られているが,既存方式の拡張を行い,従来よりも少ないリソース(量子ビット数,ゲート数)で楕円離散対数問題を解く回路構成を与えている. (iii) 従来行われている暗号の安全性評価に関しても成果を上げている.量子計算機が実現しない場合には,従来の暗号が継続して使われることが予想されるため,その安全性評価は重要である.2018年度は,具体的には,RSA暗号の安全性評価,特に,秘密鍵が部分的に漏洩した時の安全性評価およびSliding Window法における演算系列が漏洩した時の安全性評価に関しても成果を上げている.
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