研究課題/領域番号 |
16H02782
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岩間 一雄 京都大学, 数理解析研究所, 研究員 (50131272)
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研究分担者 |
宮崎 修一 京都大学, 学術情報メディアセンター, 准教授 (00303884)
玉置 卓 京都大学, 情報学研究科, 助教 (40432413)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アルゴリズムの設計と解析 / 計算量理論 / 乱択アルゴリズム |
研究実績の概要 |
情報の不完全性の克服はわれわれが以前から取り組んで来たテーマであり,時間的不完全性から始まり,空間的な不完全性,更には大量データにかかわる情報の不完全性へと発展させてきた.こうした流れの集大成として,乱数を利用するための一般的かつ普遍的な枠組みの開発を行い,様々な情報不完全性に統一的に対応できる枠組みを構築することを目的に本研究を開始した.初年度の28年度は以下の2つの具体的成果を得る事ができた.一つはオラクル列の再現問題にたいする乱択アルゴリズムの開発である.下限と完全に一致するアルゴリズムを開発する事ができ,前世紀の終わりからの重要な未解決問題に対して一定の解決を与えることができた.本成果に関しては現在論文投稿中である.もう一つは安定マッチングのゲーム理論的解析に関してである.参加者が提出する希望リストでは,希望を正直に書かずにより良いパートナーを得ることが可能であることが古くから知られている.我々は提出された希望リストがナッシュ均衡になっているかどうかを多項式時間で判定できることを初めて証明した.この成果は国際学会SWAT2016で発表された.28年度には新たにソーティングに対する平均計算量の解析に乱択アルゴリズムを利用する技術の開発を開始し既に一定の成果を得ている.ソーティングは勿論最も基本的はプログラミングの部品であり,その実際的場面での計算量,つまり平均的計算量が極めて重視されて来ている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概略で述べた様に.2つの具体的成果を得る事ができた.オラクル列の際限問題はゲノム解析から提案された問題で,上下限の間のlog nのギャップが多くの研究者の興味を引いて来た.決定性のアルゴリズムでこのギャップを縮める(例えばloglog nに)ことさえかなり困難であると認識されていたが,我々は乱択アルゴリズムの利点を複数箇所で利用することによって,完璧に解消することに成功した.2つ目の安定マッチングのゲーム理論的考察であるが,そもそも安定マッチングに対するこの観点からの研究が近年極めて盛んになっているという背景がある.多くの問題において,現状がナッシュ均衡になっているかどうかを判定するのは困難な問題であることが多く,多項式時間で判定できる例は非常に限られている.我々はこの様な理論的にも実際的にも重要視される問題に対して,多項式時間の判定アルゴリズムを開発することに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
上記2つの課題に関しては一定のレベルに達したと理解しているが,更にオラクル列問題に関しては最終的は決定性アルゴリズムに向けた脱乱化技術の開発,安定マッチングに関しては集団による欺瞞へも適用できるような発展の可能性があり,本年度も追求を進めていきたい.これ以外の研究課題としては,性質検査アルゴリズムや,オンラインkサーバー問題を挙げており,本年度も継続して研究を進めたい.特に28年度に新たに発生した問題である,ソーティングにおける平均的計算量の解析は問題が非常に基本的であるだけに大いに力を入れて行きたい.平均計算時間の解析は,本問題の場合は,乱択アルゴリズムの期待計算量の解析とほぼ一致するので本研究のテーマとも完全に一致し,また我々がいままで蓄積して来た研究成果を多いに利用できる可能性が高い.現時点でギャップを大いに縮める事に成功しているとはいえ,未だ上下限の間にかなりのギャップを残している.解析的にはほとんど最適であることが分かっているので,今後はアルゴリズム的な新アイデアが必要になってくる.
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