研究課題/領域番号 |
16H02786
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
宮沢 政清 東京理科大学, 理工学部情報科学科, 教授 (80110948)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 待ち行列理論 / ネットワーク / 定常分布 / マルチンゲール / 重負荷近似 / 拡散近似 / 分布の漸近特性 / 状態空間の崩壊 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,単一または複数クラスの客をもつ開放型待ち行列ネットワークにおける大きな待ちを解明する統一的な方法を確立することである.前年度に引き続き,区分的に確定的な確率過程に指数関数型のテスト関数を適用し,絶対連続な有界変動成分とマルチンゲール成分からなるセミマルチンゲールを導き研究を進めた.(1) 有界変動成分を利用し一般化ジャクソンネットワークの定常分布に関する重負荷近似の研究を行い論文として発表した(発表論文1).この結果を複数クラスの客に対して優先順位に従いサービスを行う場合へ拡張する研究を行った.この場合,優先度の高い客は無視できること(状態の崩壊と呼ぶ)を確認し,優先度の一番低い客については拡散近似が適切であり,その確認のための十分条件を導いた.(2) (1)と同様な方法を複数クラスの客に対して先着順サービスを行う場合に適用するために,測度を状態とするマルコフ過程に関する研究を始めた.(3) マルチンゲール成分は確率測度の変換に使うことができる.これを利用し一般化ジャクソンネットワークについて,定常分布の裾の減少率の上界と下界を求め,論文として発表した(発表論文3).(4) (3)と同様な方法を使って,背後にあるマルコフ連鎖に従い各窓口ごとに流入と流失の率が決まる多次元の流体ネットワークの定常分布の漸近特性の研究を始めた(国際会議で口頭発表の予定).(5) 関連する研究として,待ち行列の関係式を求めポーリングシステムなどに応用する研究を行った(発表論文2).(6) 計数過程をセミマルチンゲールにより表し,再生定理の精密化と一般化を行った(論文を投稿中).(7) サービスを完了した客が一定の確率で行列に戻る単一窓口待ち行列においてサービス時間分布が重い裾をもつ場合に,客の滞在時間分布の漸近特性を求めた(論文を投稿中).(4)を除き国際共同研究である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
待ち行列ネットワークを区分的に確定的な確率過程により表し,その定常分布の漸近的特性からネットワークの混雑を解明する研究を進めてきた.この研究において,指数型のテスト関数によるセミマルチンゲール表現を使った解析が役立ち,拡散過程による重負荷近似や定常分布の裾の減少率を得るために役立てることができた.特に,マルチンゲールの応用においてはフィルトレーションの選び方についての知見を深め研究を進めることができた.一方において,指数型のテスト関数を用いたことから,期待値が有限であることを確認できない場合があり.この点を克服するために状態の各成分(非負の数)を定数で打ち切って解析を行い,その後で定数を無限に大きくする方法(定数打ち切り近似と呼ぶ)が広い範囲で有効であることがわかった.定数打ち切り近似の代わりに複素数を使う方法も試みたが限界があった.国際的な研究協力体制が順調に機能しているため,研究の幅を拡げるとともに,解析を異なる角度から行うことができ,研究の進展に役立った.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では単一または複数のクラスの客をもつ待ち行列ネットワークについて,待ち行列長の定常分布の拡散近似を各種のモデルに対して求めてきた.(1) 本研究の最大の特徴は,従来のSkorohod写像(入力過程から待ち行列過程への写像)を用いた方法とは異なり,セミマルチンゲール表現を使って直接定常分布に関す得る方程式を導いた点である.この方程式の極限から定常分布の拡散近似極限を得ることができた.この方法においては,極限を取る前の各段階において定常分布が満たす方程式が得られているので,定常分布の裾の減少率が各段階で得られる.この情報を利用して,拡散近似極限への収束の様相を解明する.特に,複数クラスと優先権がある場合において,優先権がこの収束の様相にどのように関係しているのか明らかにしたい.(2) 本研究では定常分布の裾の減少率を多次元空間における幾何図形を用いて表してきた.2次元の場合は平面上の図形となるため簡単であるが,3次元以上の場合には図形の認識が必ずしも容易でない.この点を克服するために比較的に簡単な図形を組み合わせるなど新たな考え方を検討したい.(3) 複数クラスのある先着順待ち行列ネットワークに対して測度を状態とするマルコフ過程の研究を始めた.しかし,まだモデル化の段階であり,今後は有用なセミマルチンゲール表現を得るためにどのようなテスト関数が適切であるか検討し研究を進めたい.(4) 現在研究を進めているマルコフ変調流体近似ネットワークの定常分布の裾の減少率を求める研究を進めると共に,拡散近似を導出する.(5) 本年度が最終年度となるため,各種の具体的な応用を検討すると共に,待ち行列ネットワークとマルチンゲールという題目で本研究で得られた成果をまとめた論文を執筆する.
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