研究課題
1. 密な空間サンプリングと詳細分子生物地理:プロジェクト開始の本年度はカワムツに焦点を当てて、北九州へ侵入した大陸個体が在来個体群を置き換えつつ次第に分布域を広げていくプロセスを、河川間の移動率、侵入魚の置き換わり率で表現するモデルを構築した。シナリオに基づくシミュレーションにより、空間相関と空間分散を表現する要約統計量のサンプルを生成し、核型分布推定により尤度を求めた。これにより確率傾斜法により最尤推定するプログラムを開発した。2. 次世代型分子データによる集団ゲノム解析:インド、中国、日本の各地から採集されたハスモンヨトウのSNPデータに基づき、集団ゲノム解析を行った。遺伝的級間分散を遺伝的全分散で除したFSTから、インド南部から中国南部を通して日本へと広域に至る東西方向の遺伝的交流が示唆された。このFST統計量に関して、遺伝子流動の大きい集団においては経験ベイズによる安定化が有効であることを示した。3. 分子系統樹の二元配置分散分析と表現型-ゲノム統合解析:本プロジェクトを遂行する過程で偶然、ゲノムの種間比較の新たな方法を着想した。ゲノムの種間比較で観測される分子進化は、集団中に固定した突然変異を物語る。突然変異の大部分は中立あるいは不利であることから、分子進化速度は突然変異率と中立な突然変異の割合の積で近似される。前者を左右する世代の長さや変異原への暴露環境はゲノム全体に影響する。他方、後者は機能的な制約の強さと関係しており、これらの変動要因は遺伝子固有に働く。そこで、遺伝子系統樹に対して、二元配置分散分析型ポアソン回帰を考案した。主効果は分岐年代と突然変異率の頑健推定を可能とし、交互作用は遺伝子ごとの機能的な制約の変動を抽出する。表現型と結び付けることにより、関連遺伝子の探索、祖先形質の復元の新たな方法となる。
1: 当初の計画以上に進展している
上記1-2の課題は、ほぼ当初の計画通りに研究を進めている。加えて、上記課題は当初持っていなかった着想であり、本プロジェクトの奥行きを格段に深め、広がりを持たせている。
上記課題1については、プログラムの実装と要約統計量の有効性と収束性能の評価を行い、侵入魚の優越性に関する仮説検定を行う。課題2については、scaffoldのリサンプリング、合体過程のシミュレーションを組み合わせたブートストラップにより推定精度を評価するとともに、集団の履歴を考慮に入れた数理モデルと比較し、要約統計量による探索的アプローチの有効性を評価する。課題3については、哺乳類のゲノムデータと行動データベースを統合分析し、提案手法の有効性を調査する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Molecular Ecology Resources
巻: accepted ページ: accepted
10.1111/1755-0998.12663
Conservation Genetics
巻: 18 ページ: 423-437
10.1007/s10592-016-0918-2