研究課題/領域番号 |
16H02792
|
研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
栗木 哲 統計数理研究所, 数理・推論研究系, 教授 (90195545)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | チューブ法 / 最適実験計画 / 同時信頼区間 / ランダム行列 / 直交多項式 |
研究実績の概要 |
1. 期待オイラー標数法の考え方から導かれる新しい最適実験計画を提案した.Naiman (1986) は,非線形回帰モデルの回帰曲線の同時信頼区間を期待オイラー標数法によって構成できることを示した.同時信頼区間のバンド幅は回帰モデルのパラメータの推定量の分散と説明変数ベクトルのとりうる集合の体積で定まる.それらはデザイン行列の関数であり,逆にバンド幅を小さくすることを目的にデザイン行列を設計するという実験計画が提案できる.また本基準をフーリエ回帰モデル,あるいはそれと数学的に同等な重み付き多項式回帰モデルに適用すると,最適化問題にメビウス群が目的関数を保存する群として作用すること,その事実を用いると最適化の次元を減らすことができることが明らかになった.本課題は H. Wynn 教授 (LSE, UK) との共同研究である.
2. ランダム行列理論の最大固有値・特異値分布は,例えば対称行列の場合,その2次形式として定義される確率場の最大値分布としてとらえることができ,分布の裾確率評価のために期待オイラー標数法を適用することができる.実対称,複素エルミートガウスランダム行列の場合 (GOE, GUE),期待オイラー標数法による裾確率近似分布はエルミート関数で陽に書き下すことができ,その行列サイズが発散するときの極限分布は,真の極限分布である Tracy-Widom 分布の上側裾確率を正しく近似することを見いだした.
3. 確率場の分布形に関する直交多項式に基づく適合度検定の研究を行った.直交多項式から分布の局外パラメータの影響を除去することが一つの問題である.Morris (1982) で提案された指数型分布族に付随する直交多項式の場合は,局外パラメータに最尤推定量をプラグインしても,2次以上の多項式については漸近的挙動が変わらないことを示すことができた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述の3つの研究成果のうちの項目1の最適実験計画に関しては,多項式回帰の情報行列のなすモーメント空間(すなわち,正値ハンケル行列)にメビウス群が作用し,目的関数(最適化基準)を保存するという結果は思いもよらない結果であった.この事実は,最適実験計画問題の解決に役立つのみならず,他問題への応用可能性も高いものと考えられる. また項目2については,当初困難であると予想していた行列サイズが無限に発散するときの漸近理論が,エルミート関数に関する漸近理論に帰着することができ,問題を解くことができた.これも予想以上の成果であった.
|
今後の研究の推進方策 |
上述の3つの研究成果のうちの項目1については,論文執筆ならびに学術誌への投稿を行う. 項目2については,ウィシャート行列,あるいは多変量ベータ行列分布について同じことが言えるかどうか確認するとともに,行列サイズが発散するときの漸近理論の数学的な精緻化を行い,学会発表を行うとともに論文執筆を開始する. 項目3については,すでに得られている Morris (1982) の直交多項式に関する結果自体,興味深いものであるため,当初の目的である確率場の検定問題以外への応用について検討する. またそれ以外に,全体計画では述べたものの今まで取り組んでこなかった課題について研究を開始する.とくに複数の確率場の最大値の同時分布の研究を行う.それはエクスカージョン集合のオイラー標数の,モース定理に基づく表現から出発して,2つ以上の確率場の最大値の同時分布の近似を与えるというものである.
|