研究課題/領域番号 |
16H02807
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
藤田 聡 広島大学, 工学研究科, 教授 (40228995)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | P2Pシステム / ビデオストリーミング / レイテンシ / 理論的性能保証 / レジリエンス |
研究実績の概要 |
平成30年度に得られた研究成果は以下の通りである. (1) 各ピアのアップロード帯域がビデオストリームのビットレートと一致するマルチツリー型ピアツーピアビデオストリーミングシステムにおけるkホップ配信可能性について理論的に明らかにした.この結果は前年度までに彫られていた2ホップ配信可能性の議論の拡張であり,任意のkに関して,kホップ配信可能な最大ノード数以下の任意のノード数に対してk+1ホップ配信が可能であることが証明された.この結果,これまでには知られていなかったマルチツリー型配信におけるレイテンシの保証が(1ホップ分の余裕が必要であるが)初めて可能になった.また付随する結果として,kホップ配信が可能であるような十分条件もいくつか明らかになっている. (2) ビデオストリーミングシステムに多数のノードが一斉に参加する状況(フラッシュクラウド)を緩和するための具体的なアルゴリズムを明らかにした.この手法は,理論的な下界よりも定数分だけ大きなレイテンシでツリーの成長とストリームの配信を同時に実現することができ,理論的にほぼ最適である. (3)配信されるストリームが複数存在し,それらのストリームのビットレートが一様でない状況で効率的にノードの負荷分散を行う手法を提案した.提案手法は,同一のレイテンシを保証するために必要なサーバコストを従来手法に比べて大幅に減らすことができ,各ノードの持つアップロード容量を超えるビットレートを持つストリームの配信も可能にしている.(4)前年に引き続き,提案する性能保証手法の妥当性を検証するためのテストベッドを拡張し,Androidタブレット上で実行する環境を構築した.テストベッドは,Androidデバイスから構成されるアドホックネットワーク上での動作を想定しており,ストリーミングの信頼性を向上させるための仕組みが組み込まれている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まずストリーミングの質保証の問題に関しては,保証すべき動画品質(配信遅延とビットレート)とピア数の厳密な関係性があきらかになったことで,P2Pストリーミングの質保証のための技術がほぼ出揃ったと言える.特に,30年度の成果によって,与えられたレイテンシを達成するようなマルチツリー型配信が常に可能であることが明らかとなり,ストリーミング品質の理論限界を現実のピアツーピアシステム上で達成するための具体的な道筋が見えてきた.ただし29年度にも指摘したことであるが,そのような「パラメータの変化に応じて配信方法を適応的に変化させていく手法」は,パラメータの変化が比較的緩やかな場合は有効であるが,ピア数が急激に変化する状況では, それとは別なアドホックなアプローチも必要である.30年度の成果はそのような状況への具体的な対処法も与えるものになっている.フラッシュクラウドに対する手法と平常時の配信手法を如何にしてシームレスに繋ぐかについては,最終年度(令和元年)に検討する予定である.不特定多数のピアが参加するP2P環境に特有な,外部からの攻撃に対する脆弱性を軽減する方法に関しても,おおよそモデル化のめどが立ったと考えているが,現状では攻撃による影響はサービスの停止のみであり,今後はこれを拡張し,サービスに関する一時的な性能低下が起こるようなモデル化を行う必要がある.インセンティブメカニズムの設計と評価に関しては,ベースとなるピアツーピア環境での動画品質の差別化手法が明確になったことで,いよいよ本格的な議論が開始できる準備が整ったと考えている.最後に,シミュレーションや実アプリケーションを通しての評価という点についても,前年度までに整備した環境上で実装した基本となるストリーミングシステム上の動画配信アプリケーションの開発を完了しており,当初の計画通りの進捗状況である.
|
今後の研究の推進方策 |
まずストリーミングの質保証の問題に関しては,理論の枠組みの中で保証される動画品質の幅を順次広げていく予定である.またピア数の増減や各ピアのアップロード帯域の動的な変化に対して配信方法を適応的に変えていく具体的なアルゴリズムをクラウド支援の枠組みの中で設計し,その性能 を理論的に解析するとともにシミュレーションによる評価をおこなっていく.性能を安定化していくには,帯域や参加ピア集合の不安定さを吸収するための何らかの工夫が必要と考えている.そのためのひとつのアプローチとして,ネットワークコーディング(NC)の応用についても検討を進めていく.予備的な結果として,NCの使用によって保証される動画の品質が真に向上することがあきらかになっており,今後はこの知見をさらに発展させていく予定である.これまでに考察してきたフラッシュクラウド時の性能保証に関しては, 計算サーバを使った網羅的なシミュレーションをおこなうことで提案手法の性能を実証的に評価していく. 外部からの攻撃に対する 脆弱性を軽減する方法に関しては,攻撃によるダメージのモデル化を完成させ,ダメージを最小化するような具体的なオーバーレイ更新アルゴリズムの設計と解析を行っていく.また令和元年度からは,各ピアに対してシステムに貢献するインセンティブを与えるための具体的な手法の設計も行っていく.最後に,シミュレーションや実アプリケーションを通しての評価に関しては,基本となるストリーミングシステムを拡張し,本研究課題で提案したいくつかのアルゴリズムを実アプリケーション中で 実装していくことを計画している.現在までのところ,アドホックネットワークをベースにしたビデオストリーミングシステムの構築と,ライブ配信システムの実装が完了している.
|