研究課題
自閉症者の抱える社会的困難は、他者の心の状態の読み取り、特に、他者が自分の信念や現実とは異なる誤った信念を持っていることの理解(誤信念理解)のなさにあるという仮説がある。道徳判断においても、信念の理解が大きな影響を及ぼす。定型発達者においては、他者が誤った信念を持っていて他者を害した事故的害(例.実際は毒キノコだが普通のキノコだと信じて振る舞った)を、意図的害(例.毒キノコを毒キノコだと信じて振る舞った)より、道徳的な許せなさを低く判断することがわかっており、故意ではない場合には「情状酌量」が行われることを示唆している。一方、自閉症者では、定型発達者に比べて、事故的害を非難しやすい傾向があることが報告されている。これが情状酌量のなさによるものか、結果重視によるものかが不明確であった。ここでの「結果」には「被害者の苦痛」と「悪い出来事の発生」の2つが含まれているため、2つを区別して検討を行った。具体的には、意図的害(意図あり、結果あり)、害未遂(意図あり、結果なし)、事故的害(意図なし、結果あり)、意図的破壊(意図あり、結果はあるが苦痛なし)の4条件を設け、行為に対して許せないと感じる度合いについて、自閉症者と定型発達者を対象に回答を求めた。結果、意図的害以外のすべての条件で群間差が見られた。害未遂では、自閉症群より定型発達群の方が許せないと判断していた。逆に、事故的害と意図的破壊では、自閉症群の方が定型発達群よりも許せないと判断する傾向があった。また、同時に行った誤信念課題では群間差は見られなかったため、道徳判断の群間差は、誤信念理解能力がないことによる結果ではないことが示唆された。これらの結果より、自閉症者は、加害意図がなかった行為について情状酌量をしないというよりは、悪い結果が起こったこと自体を重視して道徳判断を行っている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
繰越後、特に問題は起こらず、予定通りに計画が進行中であるため。
自閉症者、定型発達者における心に基づいた道徳性について検討を行う。
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