研究課題
本研究の目的は,なつかしさのもつポジティブ-ネガティブな機能の個人差に関して,その記憶-感情過程の認知的,神経科学的基盤を解明し,回想法などの実践に役立てることである。本年度は1年目として,以下の3つの研究班に分かれて,認知心理学班では,研究の土台となる調査と実験を行った。その成果に基づいて,神経科学班では,2年目以降に行うfMRI課題の準備,精神医学班では,軽度認知障害(MCI)の患者のための実験課題の策定を進めた。A) 認知心理学班では,第1に,なつかしさの機能と個人差を明らかにするために,10代から80代の900人に対する調査を実施し,加齢により,なつかしさ喚起と,ポジティブななつかしさ傾向,社会的サポート,人生満足度,自尊心は上昇し,孤独感は低下することを解明した。第2に,涙のように水が目から滴り落ちる器具(涙メガネ)を用いて,過去の記憶を想起させたところ,統合失調症傾向が高いほど,涙眼鏡の影響を受けやすく,感情をともなう記憶を想起させる傾向が見られた。このことから,統合失調症傾向が高ければ高いほど,想起した記憶になつかしい感情を抱きやすいことが示唆された。第3に,なつかしさ感情が刺激呈示傾向と楽観悲観傾向が単純接触効果に及ぼす影響を検討した。実験の結果,集中呈示された刺激への好意度は,1週間のタイムインターバルによって分散呈示と比較して上昇したが,参加者の楽観悲観傾向による差異は見られなかった。B) 神経科学班では,なつかしさの機能に関する個人差の神経基盤の解明するため,第1に,fMRI課題に用いる物語を作成した。第2に,健常若年者20名を対象として,fMRI課題に用いる写真刺激の妥当性を確認した。C) 精神医学班では,軽度認知障害(MCI)の患者におけるなつかしさを利用した回想法の効果に影響する要因と神経基盤を解明するために,必要な実験課題の策定を行った。
2: おおむね順調に進展している
研究計画にしたがって,3つの班に分かれて研究を進め,全体会議,研究会,講演会において分担研究者間の相互の情報交換を行なった。そして,高齢者含む大規模調査,大学生を対象とした複数の実験をおこなった。その成果の一部は,日本社会心理学会大会,日本認知心理学会,The 31st International Congress for Psychologyなどで発表した。また,予備実験によって,fMRIの刺激の選定,軽度認知障害(MCI)の患者に対する実験課題の準備をおこない,今後の研究のための土台ができた。以上の通り研究は順調に進んでいる。
本研究では,前述の3つの目的を達成するために,3つの研究班に分かれ,相互の連絡を密に行いながら研究を推進する。A) 認知心理学班では,第1に,なつかしさの機能と個人差を明らかにするために,記憶経験に関する高齢者を含む大規模な継続調査を実施する。第2に,仮想現実空間を使用して,なつかしさを感じる空間で想起する過去の出来事の種類,過去の出来事を想起することが心理・社会・身体的幸福感に及ぼす影響について検討する。第3に,パワープライミング課題を用いて,その後に刺激の集中・分散呈示を行うことで,これら一連の操作が参加者のなつかしさ感情を喚起させ,感情が単純接触効果に及ぼす影響を検討する。B) 神経科学班では,第1に,なつかしさの機能に関する個人差の神経基盤を同定するためのfMRI課題を作成し,妥当性を検討する。さらに,健常者数名に対してパイロットfMRI実験を実施する。第2に,物語におけるメンタルタイムトラベルを検討するために時間の逆行,順行を操作し,行動実験とfMRI実験を行い,時間の逆行および順行に関連する脳部位の活動が,なつかしさを強く感じる参加者ほど強く活動するかどうかを検討する。C) 精神医学班では,軽度認知障害(MCI)の患者におけるなつかしさを利用した回想法の効果に影響する要因と神経基盤を解明するために,必要な神経心理検査や実験課題の検討をさらに進める。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 図書 (5件) 備考 (1件)
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