研究課題
本研究では、動物が道に迷い静止した際に、海馬の場所細胞が移動中の約10倍速の早送りモードで再活性化される「リプレイ」現象に着目し、そのリプレイと、そこで表現されるエピソード記憶の因果関係を解明することを目指す。それは、独自の電気生理学的記録法に光遺伝学を活用した神経刺激法を組み込むことで、エピソード記憶を想起するメカニズムを、従来不可能であった、神経細胞レベルで実証することでもある。本年度は、10倍速の早送りモードで再生される場所細胞活動のリプレイを長期間にわたり確実かつ安定に検出し、そこから目標とするリプレイを選択的に操作するために、場所細胞活動を大規模に記録する特殊装具と、光遺伝学に基づく刺激技術を確立した。具体的には、最大12本のマルチ電極と刺激用光ファイバをそれぞれ独立に可動できる小型マイクロドライブを、3DプリンタとCADを活用し、十数回の試作・試験を繰り返すことで開発した。総重量は、マウスにも装着可能な3gを達成することができ、3ヶ月以上安定的に神経細胞活動を計測することができた。更に、光遺伝学による細胞種選択的刺激システムを構築した。遺伝子組み換え技術を活用したCre-LoxP部位特異的組換え法により、抑制性のパルバルブミン(PV)陽性ニューロンに対して特異的にChR2を発現させ、場所細胞の集団活動を抑制により操作する実験を実施した。今後は、場所細胞活動の記録法と光刺激法をリアルタイムに連動させ、目標とする場所細胞活動のリプレイを選択的に操作する手法を開発する予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は、10倍速の早送りモードで再生される場所細胞活動のリプレイを長期間にわたり確実かつ安定に検出し、そこから目標とするリプレイを選択的に操作するために、場所細胞活動を大規模に記録する特殊装具と、光遺伝学に基づく刺激技術を確立した。具体的には、最大12本のマルチ電極と刺激用光ファイバをそれぞれ独立に可動できる小型マイクロドライブを、3DプリンタとCADを活用し、十数回の試作・試験を繰り返すことで開発した。総重量は、マウスにも装着可能な3gを達成することができ、3ヶ月以上安定的に神経細胞活動を計測することができた。更に、光遺伝学による細胞種選択的刺激システムを構築した。遺伝子組み換え技術を活用したCre-LoxP部位特異的組換え法により、抑制性のパルバルブミン(PV)陽性ニューロンに対して特異的にChR2を発現させ、場所細胞の集団活動を抑制により操作する実験を実施した。以上のように、当初設定した目的を達成できたため、おおむね順調に進展していると判断した。
来年度は、場所細胞活動の記録法と光刺激法をリアルタイムに連動させ、目標とする場所細胞活動のリプレイを選択的に操作する手法を開発する。そして、これまで築き上げてきた多くの手法を統合しさらに光遺伝学を融合することで、エピソード記憶の想起メカニズムを、従来不可能であった、神経細胞レベルの脳活動動態として総合的に解明する。目標とするエピソードを表現するリプレイを、リプレイ現象の開始直後に予測することで、そのリプレイを消去あるいは強化することができる。そこで、リプレイが表現するエピソードを事前に予測するために、機械学習法を活用し、目標とするエピソードを表現するリプレイだけを選択的に操作する。本研究で開発する手法により、場所細胞活動のリプレイに表現されているエピソードの記憶を解読する。そして、そこから目標とするエピソードに合致するリプレイを光刺激により選択的かつ瞬時に操作する。最終的に、その操作と、それによって誘起される動物行動との因果関係を行動学的に分析することで、エピソード記憶の想起メカニズムを認知神経科学と神経生理学の両面から総合的に考察する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件)
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