研究課題
インフルエンザの予防にはワクチン接種が有効であるが,人の免疫圧による選択淘汰を受けてウイルスの遺伝子が変異し続けるため,ワクチン株を頻繁に更新しなければならない。そこで,本研究では,ワクチン株を先回りして準備するために,感染症数理疫学と集団遺伝学を融合し,ウイルスの遺伝子配列の文字列統計量から,感染症流行モデルのパラメータを推定する手法を開発する。インフルエンザのリアルタイム流行予測およびウイルスの変異予測を行い,その予測精度を明らかにすることを目的としている。平成28年度は,下記の項目の研究を実施した。(1) ウイルスの遺伝子変異および感染・免疫を表す数理モデル構築した。集団遺伝学のCoalescent理論,理論生物学分野のQuasi-species理論および数理疫学分野の感染症流行モデルを融合し,これらを統一的に扱う数理モデルを設計した。(2)このモデルを計算機上に実装し,人の集団免疫の元でウイルスが変異を蓄積しながら流行を繰り返すことが再現できていることを確認した。(3)実際に観測されるウイルスの塩基配列のTajimaのDを計算し,シミュレーションで得られたTajimaのDから近似ベイズ計算により,ウイルスの基本再生産数を計算する手法を開発した。(4)2009年のパンデミックインフルエンザの塩基配列を用いて,この時のインフルエンザの基本再生算数が1.55であり,その95%信用区間を1.31から2.05であると推定した。(5)この推定値を疫学的に得られた基本再生産と比較し,この推定方法が基本再生算数を正確に推定できることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題は,研究期間内に,1) ウイルスの遺伝子変異および感染・免疫の時間発展を表す数理モデル構築,2) 感染・免疫・変異の大規模並列モンテカルロシミュレーションシステムの実装,3) ウイルスの遺伝子配列の文字列統計量から数理モデルのパラメータを推定する手法,4) 推定されたパラメータと数理モデルから次に流行する株を予測する手法,5) 実際に観測される変異と予測結果の照合による予測精度の評価について研究することを目的とする。上記1)~5)に挙げたうち,数理モデルの構築,シミュレーションシステムの実装,文字列統計量からの疫学パラメーターの推定,近似ベイズ計算の実装,疫学データとの整合性の確認は順調に進んでいる。
ウイルスの遺伝子変異および感染・免疫の時間発展を表す数理モデル構築,大規模並列モンテカルロシミュレーションシステムの実装,ウイルスの遺伝子配列の文字列統計量から数理モデルのパラメータを推定する手法,次に流行する株を予測する手法,予測精度の評価について研究を継続する。ウイルス株の各系統についてTajimaのDを指標に実効再生算数を計算し,翌年どのウイルスがメジャーになるかを予測する手法を開発し,その予測精度を明らかにする。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 7件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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