研究課題/領域番号 |
16H02863
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
伊藤 公人 北海道大学, 人獣共通感染症リサーチセンター, 教授 (60396314)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / 抗原変異予測 / 文字列統計量 |
研究実績の概要 |
インフルエンザの予防にはワクチン接種が有効であるが,人の免疫圧による選択淘汰を受けてウイルスの遺伝子が変異し続けるため, ワクチン株を頻繁に更新しなければならない。そこで,本研究では,ワクチン株を先回りして準備するために,感染症数理疫学と集団 遺伝学を融合し,ウイルスの遺伝子配列の文字列統計量から,感染症流行モデルのパラメータを推定する手法を開発する。インフルエンザのリアルタイム流行予測およびウイルスの変異予測を行い,その予測精度を明らかにすることを目的としている。平成29年度は,下記の項目の研究を実施した。 (1)集団遺伝学のCoalescent理論,理論生物学分野のQuasi-species理論および数理疫学分野の感染症流行モデルを融合し,ウイルスの遺伝子変異および感染・免疫を表す数理モデル構築した。(2)計算機シミュレーションにより,人の集団免疫により変異ウイルスが選択されながら流行を繰り返す様子を再現した。(3) 翌年流行する新しい変異ウイルスは,塩基配列のTajima のDが低くなる傾向にあることを見出した。 (4)ウイルス株の塩基配列のTajimaのDから翌年流行するウイルス株を予測する手法を開発した。 (5)2006年2015年までの10シーズンの実際のウイルスの塩基配列データを用いて翌年流行するウイルス株を予測する実験を行ったところ,10シーズン中7シーズンで流行したウイルス株を正しく予測できていたことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は,研究期間内に,1) ウイルスの遺伝子変異および感染・免疫の時間発展を表す数理モデル構築,2) 感染・免疫・変異の 大規模並列モンテカルロシミュレーションシステムの実装,3) ウイルスの遺伝子配列の文字列統計量から数理モデルのパラメータを 推定する手法,4) 推定されたパラメータと数理モデルから次に流行する株を予測する手法,5) 実際に観測される変異と予測結果の照合による予測精度の評価について研究することを目的とする。上記1)から5)に挙げたうち,数理モデルの構築,シミュレーションシステムの実装,文字列統計量からの流行株の予測方法の開発が順調に進んでいる 。
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今後の研究の推進方策 |
ウイルスの遺伝子変異および感染・免疫の時間発展を表す数理モデル構築,大規模並列モンテカルロシミュレーションシステムの実装 ,ウイルスの遺伝子配列の文字列統計量から数理モデルのパラメータを推定する手法,次に流行する株を予測する手法,予測精度の評価について研究を継続する。ウイルス株の各系統についてTajimaのDを指標に実効再生算数を計算し,翌年どのウイルスがメジャーに なるかを予測する手法を開発し,その予測精度を明らかにする。
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