研究課題/領域番号 |
16H02879
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
伊藤 聡 岐阜大学, 工学部, 教授 (70291911)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 知能ロボット / 平衡制御 / 運動計測 / 運動学習 / 知覚変化 |
研究実績の概要 |
ヒトの運動の特徴は,環境に合わせてそのパターンを変えていく適応・学習機能にあり,近年の研究では環境の変化に対する学習により運動パターンという運動系の現象ばかりでなく,知覚という感覚系にも内的変化が起きることが明らかになった.本研究では,ヒトの平衡を対象として運動系と感覚系の同時学習の数理メカニズムを解明し,ロボットや人間支援機器の制御への応用に繋げることを目的とする. 平衡の運動と知覚に関するヒトの行動を,実験時の安全を考え,座位状態で計測してきた.そこでは特別な椅子を製作し,椅子全体が側方向に平行移動して生じる慣性力外乱と,座面下のロードセルから計測させる圧力中心の位置によりロール軸周りの不安定化を起こす回転外乱の2種類を被験者に与える.外乱には運動学習時に優位に倒れる方向を外乱方向として左右の方向性を持たせる.外乱方向を選択して被験者に平衡維持の運動学習を行わせると,その前後で主観的直立姿勢すなわち左右のどちらにも傾いていないと判断される姿勢感覚が側方向に変位することが分かってきた. しかし,主観的直立姿勢に変化を及ぼす主要因を特定するため様々な条件を試してみると,外乱方向に対する主観的直立姿勢の変化方向が正逆の両方向観察された.運動時の被験者の動きを取得したところ,その変化方向は平衡運動時の姿勢に影響する可能性が示唆された. 本年度は,昨年度に引き続き運動学習時の姿勢統一により,主観的直立姿勢の変化方向を均一化すること,またそれに加え,各変化方向についてそれを説明する数理モデルを構築することを目標とした.しかし,残念ながら前者に関しては実験時の被験者が行うタスクが難しくなったためか姿勢統一が十分でなく,予想した結果は得られていない.後者に関しては,外乱と同じ方向に主観的直立姿勢が変化する場合のモデル化を行い,定性的説明を可能とするシミュレーションを示すことができた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の目標の一つは,平衡運動学習前後での主観的直立姿勢の変化方向を,各被験者で統一できるような実験条件を確立することであった.その実験条件が,運動学習時の姿勢にある可能性が過去の実験から示唆されていた.前年度は,座位状態で上体全体を真っすぐ伸ばした状態で平衡維持を行ってもらった.しかし,頭部を含む上部の動きが大きくなるため,ゆっくりとロール回転する座面上での動作には恐怖心が伴い,結果的に姿勢統一が十分でなく予想通りの結果は得られなかった.そこで今年度は,動作が比較的小さくなるよう上体を倒すべき方向に倒した後,胸部より上部を反転させて「く」の字状態で平衡維持をするように指示した.ところが,その動作そのものの難易度が高く,同じように姿勢の統一ができなかった.平衡運動学習時の姿勢が統一できるような方法を見つけ出すことが現在の急務であると考えている. また,もう一つの目標である数理モデルの構築に関しては,外乱と同一の方向に主観的直立姿勢が変化する場合のモデル化を試みた.すなわち,運動学習時に上体を真っすぐに維持したまま平衡維持を行っているとその後の主観的直立姿勢は,上体を倒していた方向に変化するというものである.これに関しては「タスクが平衡維持であるため,結果として運動学習時に傾斜していた方向を直立姿勢と思って感覚修正を行っている」という仮説を立て,そのもとで数理モデルを構築した.このモデルにより,主観的直立姿勢が変化する現象を,ダイナミクスを用いて説明できるようになった.
|
今後の研究の推進方策 |
運動の計測に関しては,運動学習での主観的直立姿勢の変化方向が統一できるような実験条件を確立するよう,実験プロトコルの見直しを進める.過去の実験では,主観的直立姿勢の変化には,慣性外乱と回転外乱の2種類が必要であったが,それを再度見直し,より簡単な方法でそれが起こせないかを再検討を行う. 知覚変化のモデル化に関しては,外乱とは逆方向に主観的直立姿勢が変化する場合の方の数理的説明を試みる.こちらの仮説では,平衡維持時の直立姿勢目標値は外乱と反対方向に変化するため,主観的直立姿勢はその目標値変化の影響を受けている,と考える.シミュレーションにより,観察される現象をダイナミクスで記述することを目標とする. 最後に本年度数理モデルを構築した現象に関しては,ロボットを作成し,実空間の動作として再現することを目指す.今年度の予算で,制御に関わる周辺装置の購入を行ったため,ロボット本体の設計・製作と実験システムの構築を行っていく.
|