研究課題/領域番号 |
16H02883
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研究機関 | 産業技術大学院大学 |
研究代表者 |
橋本 洋志 産業技術大学院大学, 産業技術研究科, 教授 (60208460)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ディジタルハンド / 解剖学 / 道具操作 / 手姿勢 / 状態遷移 |
研究実績の概要 |
柔軟な皮膚で覆われた人間の手が道具を動的に操作(ハサミ操作/箸の持替え等)するときの手と道具間の相互状態を考える。本研究の目的は、この動的状態での手と道具間の力学的相互関係を考察し、これを基に手姿勢の状態遷移メカニズムを明らかにすることで手の動的作業能力を体系化することにある。本研究の特徴は、力学的相互関係の変化を対象とし、接触部のミクロな力表現と道具の挙動を表すマクロな力表現を導入することで、状態遷移メカニズムを基本動作に分解することにある。これを分析することで、状態遷移と道具操作が関連するメカニズムを解明する。初年度は、ハンドモデルの改良A-1),A-2)と力学的関係解明の作業B-1),B-2)を進めた。 A-1) 構成要素の設計論 現在のハンドモデルの改良として、骨格モデルについて、3種のアーチと親指のCM関節の6自由度を実現した。次に、手の模倣度を上げるため、手根骨などの骨形状デザインを検討した。 A-2) モデルの結合法 弾性体の皮膚に道具の応力がかかる仕組みをモデル化する。皮膚モデルの形状が対称形でないため、結合位置の算出が難しい。そのため、1本の指骨モデルと皮膚モデルとの結合点の位置を自動算出するアルゴリズムを開発した。 B-1) 接触面での力のミクロ表現 皮膚モデルを人間の皮膚に近づけるため、メッシュ分割を導入、かつ、力分布のクラスタリングを図った。 B-2) 道具の力のマクロ表現 人間は、道具の形状が変化しても、大まかなイメージで、その全体の動きを捉えている。例えば、ハサミの例では、ハサミ自身の位置は変動し、形状は変化するが、人間は道具のマクロな動きを認識している。ハサミの例では、代表点である支点を道具の位置、道具の機能(モノを切る)としての指穴の動き、これらをマクロな動きとした表現法を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時で述べた目的を実現するための項目は、上記の研究実績で述べた四つの項目に集約され、これらを実施した。ここで述べたように、A-1)については順調な進捗といえる。A-2)に関して、皮膚(柔軟体モデル)と指骨(剛体モデル)の結合法に関しての指針を見出した。B-1)について、メッシュ分割数の決定の指針、各メッシュからの力発生の分布の様子に関して、まだ、確定的な方法論や計測、および表現法が見いだせておらず、シミュレーションでのカットアンドトライに頼っている状況である。B-2)に関しては、ケーススタディで、幾つかの貴重な知見を見出しており、それらを学会などで報告している。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は、ハンドモデルの改良であるA-1) 構成要素の設計論:ハンドモデルの改良として関節自由度を上げることと、ハンドモデルの模倣度を上げることを検討する。A-2) モデルの結合法:弾性体の皮膚に道具の応力がかかる仕組みをモデル化する。および、B-1) 接触面での力のミクロ表現:接触部のメッシュ分割数のクラスタリングと、接触面の局所毎の力学的説明を与える。B-2) 道具の力のマクロ表現:道具の形状が変化しても、大まかなイメ一ジで、その全体の動きを捉えているメカニズム表現を確立する。これら4つの項目を継続して研究を遂行する。 初年度と異なる点は、各項目ともに、初年度で得られた知見および改善点を反映させることにある。これら4つの項目に関する結果と知見はそれぞれ相互に反映される関係にある。特にハンドモデルはコンピュータグラフィックスを用いるため、これに関する実験の進捗速度を高めるために、今年度では、GPU(Graphics Processing Unit)搭載の高速グラフィック描画機器を購入し、並列処理を考慮したハンドモデル描画および衝突計算の高速処理の改善を図り、実時間操作性向上の検討を行う。 今年度より、新たに、次のC-1)、C-2)の研究を開始する。C-1) 手姿勢の基本動作抽出と記号表現:手姿勢の基本動作を抽出し、この遷移の記号表現を図る。例えば、「掴む」「離す」「回す」などの基本動作を用いた表現法を策定する。C-2) 状態遷移メカニズムの解明:C-1)で示す基本動作の状態遷移、かつ、各基本動作を上手に実現できるという事実から、仮説として、「手がある熟練操作を行うとき、その作業に適する基本動作のある状態遷移があり、かつ、各基本動作を上手に実現することで、熟練が達成できる」、という考えに立ち、このことを状態遷移メカニズムとして捉え、手の作業能力に関する体系化を図る。
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