研究実績の概要 |
映画・テレビジョン・テレビゲームの3D 化と高精細化(4K・8K 化)が急速に進んでいる.人工的立体視は,遠近感・臨場感・迫真性を与えることができる反面,眼精疲労や「3D 酔い」などの生体に及ぼす望ましくないリスクが伴う.広視野化と高精細化は臨場感・迫真性を増強させる可能性があるが,その分リスクも増える可能性がある. そこで本研究では,リスクを最小にしながら臨場感・迫真性を最大限に引き出すための方法を得るために,次を目的としている.1) 3D 映像のリスクの原因に関する仮説を検証し,発症条件を明らかにする.2) 映像リスク評価システムを高機能化する.3) 3D 表示における広視野・高精細化による臨場感・迫真性の客観的評価と増強方法を開発する. 本年度では上記1)について,垂直視差が生体に及ぼす影響を検討した.学生10名を被験者として,視差角-2~2 deg,0.1 Hzで前後方向に正弦波状に運動する3D指標を凝視させ,頭部の傾斜角を0, 15, 30, 45, 60 degの5種類とした.提示後には不快度を5段階で測定した.計測した眼球運動から,左右眼の垂直方向運動速度の差分信号における0.1 Hz近傍のパワースペクトル(逆相信号強度)を計算した. 傾斜角の変化に対する逆相信号強度と不快度の関係より,垂直方向の逆相信号強度は,傾斜角が0~15 degの場合には低いが,傾斜角の増大とともに増加し,45 degで最大となった.この領域で不快感が増加した理由は,水平輻輳運動と比較して,垂直方向に逆位相に眼球を運かすことが不自然な運動制御であるからだと推測される.一方,傾斜角が60 degでは逆相信号強度が減少した.この理由は,融像が維持できず眼球運動制御の有効性が減少し,視野闘争が生じたからだと推測される. 以上から,不自然な眼球運動と視野闘争が不快感を誘発することが示唆された.
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