映画・テレビジョン・テレビゲームの3D 化と高精細化(4K・8K 化)が急速に進んでいる.人工的立体視は,遠近感・臨場感・迫真性を与えることができる反面,眼精疲労や「3D 酔い」などの生体に及ぼす望ましくないリスクが伴う.広視野化と高精細化は臨場感・迫真性を増強させる可能性があるが,その分リスクも増える可能性がある.そこで本研究では,リスクを最小にしながら臨場感・迫真性を最大限に引き出すための方法を開発する.映像酔いの原因として,視覚と前庭感覚の矛盾が映像酔いを引き起こすという感覚不一致説が唱えられているが,本研究では,このような感覚不一致状態を緩和することが臨場感・迫真性を高めることに寄与するという仮説を立て,この仮説を検証できるような実験系を新たに構築し,その有効性を検討した. すなわち,頭部を回転させたときに頭部にかかる重力加速度を変化させることで使用者に前庭感覚を提示する手法を提案した.開発した装置では,ヘッドギアの前後左右に接続したワイヤをそれぞれモータで引くことで頭を前後左右に傾けることを可能とした.PC から各モータのトルク制御を行い,モータごとのトルクの差によって動揺を与えることができる.まずVRソフトのUnityで生成した映像の動きに合わせて加速度情報をPC内で定義する.次に加速度情報をモータ制御情報に変換し,これをモータドライバに入力することで動揺提示を行う. 自動車走行を模擬した環境でこの装置を用いた被験者実験を行った結果,被験者が見積もった自動車停止位置について,頭部動揺を与えないときより与えたときのほうがその精度が向上した.また,シミュレータ酔いの評価に使われるアンケートであるSSQの値から判断して,実際の加速度変化に連動した頭部動揺を与えたほうが,酔いの感覚を軽減させることが定量的に明らかとなった.
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