研究課題/領域番号 |
16H02896
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
松野 浩嗣 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (10181744)
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研究分担者 |
西井 淳 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (00242040)
堀 学 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (00253138)
岩楯 好昭 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (40298170)
浦上 直人 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (50314795)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遊走細胞 / アクチン分子制御 / 高分子鎖 / 細胞の行動反応 / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
・動力学シミュレータ上に仮想細胞を構築した。具体的には,相互作用する粒子群により細胞膜を表現し,その内部にアクチン分子を配置し,アクチン分子の重合や,アクチン分子を細胞後部に牽引するレトログレードフローをシミュレートできる環境を構築した。 ・細胞内のミクロな物質構造の変化が、細胞の形状変化及び細胞の移動を生み出す仕組みを物理学的に考察するため,ベシクル内部の高分子鎖の剛直性を変化させた時のベシクルの形状変化の解析を分子動力学シミュレーションにより進めた。その結果,円盤状から棒状ベシクル,棒状から円盤状ベシクルの形状変化の様子を確認することに成功した。現在,ベシクル内部の高分子鎖の構造変化とベシクルの形状変化の関係について解析を行っている段階である。 ・遊走細胞には時々刻々形状を変化させる細胞(細胞性粘菌アメーバや好中球など)と形状を維持する細胞(魚類表皮ケラトサイトなど)がいる。細胞性粘菌アメーバや好中球様HL-60培養細胞が、基質の硬さを感知してその移動方向を決定することを明らかにした。また,形状を維持するケラトサイトは細胞内にストレスファイバを持つが,細胞の移動を立体的に撮影することに成功し,移動中,ストレスファイバが回転することを明らかにした。 ・今年度は,ゾウリムシの化学物質に対する行動反応について行動を制御する 生体膜分子に焦点をあてて分子生理学的な解析を行った。その結果,これまで行動反応は,カリウムイオンチャネルとカルシウムイオン チャネルの2つで説明されてきたが,塩素チャンネルが行動の制御に 重要な役割を果たしているという結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・仮想細胞のシミュレータを構築し,細胞遊走が生じる条件の検討を開始し,それを制御するシグナル伝達経路の組み込みモデルを作成している。 ・細胞内の物質構造の変化と細胞の形状との関係性を解明するための基礎研究を継続的に行っており、ほぼ想定した成果が得られている。 ・アメーバ運動の動力学ダイナミクスに関して、好中球様 HL-60 細胞株が基質の硬さを認識しその移動方向を決定する rigidity sensing を発見し、これを論文として報告した。移動方向の決定はアメーバ運動の重要な要素の一つである。 ・ゾウリムシの行動反応について分子生理学的な解析を行うことで,逃走反応や集合反応における生体膜分子と繊毛タンパク質の関係が明らかになりつつある。また,回避反応に関しても,これまでCaイオン チャネルを介したCaイオンの動態しかわかっていなかったが,関与する膜タンパク質や細胞構造との関係解明をすすめている。現在,これらの結果を基にして,刺激に対するシグナル伝達経路のモデル化を始めている。
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今後の研究の推進方策 |
・仮想細胞のシミュレータを用い,アクチン分子の重合や脱重合,レトログレードフローが どのような条件を満たすことで細胞遊走を実現できるかを今後検討していく予定である。 ・細胞内の物質構造の変化による,細胞の形状変化や移動を生み出す動力学検討を,分子動力学シミュレーションにより継続して行う。現在、基板上におけるベシクルの形状変化に関するシミュレーションを開始しており,高分子鎖の影響によりベシクルが基板上でどのような形状変化を示すのか明らかにして行く予定である。 ・基質の硬さの認識から移動方向を決定する間の細胞内シグナル伝達は全く未知であり,関連するタンパク質の実体は何で,アメーバ運動中のダイナミクスがどの様になっているのか,光学顕微鏡によるライブイメージングによって明らかにしたい。さらに、同様の rigidity sensing 機構が他の細胞種でもみられる普遍的なものであるかも併せて明らかにしていく予定である。 ・ゾウリムシに行動反応を引き起こす生体膜分子と繊毛タンパク質との関係を解明する研究を継続して行う。特に,Caイオンが繊毛タンパク質を制御する仕組みを重点的に研究する予定である。また,これまでに得られた成果から,刺激の受容とシグナル伝達,作用器である繊毛の運動制御の機構をモデル化する予定である。
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