研究課題
本研究の目的は,我々の脳で実現される予測性適応運動制御の神経機構を理解し,それを工学的に実現して,ロボットや医療機器等の実機制御に応用することにある.本研究では,次の4つのレベルの研究を進め,この目的の達成を目指す:1) 行動,2) 神経細胞活動,3) 神経ネットワーク,4) 工学応用1)では,金魚を用いた視運動性眼球運動(OKR)周期同調実験を実施する.OKRの周期同調は1997年にMash & Bakerにより報告された予測性眼球運動であり,関連する神経経路の理解度の高さや現象の定量化しやすさなどから,予測性運動制御の神経機構を探る上での好例と考えられる.2)では,金魚の周期同調学習前・中・後の小脳神経細胞活動を計測する.3)では,小脳神経回路を陽に記述したOKRモデルの構築と,周期同調学習シミュレーション解析を行う.4)では,小脳の数理モデルを実時間動作可能なように簡略化し,予測性適応制御コントローラとしての応用可能性を明らかにする.本プロジェクト2年目の平成29年度は,主に上記研究レベルにおける3)の研究を進めた,初年度に得られた行動と神経電位計測データを再現可能な数理モデルの構築と,シミュレーション条件(周期同調学習に必要な誤差信号,シナプス可塑性部位,学習則)を決定し,種々の条件下における計算機シミュレーションを実施した.また,研究遂行過程で得られたモデル解析に基づく予測の確認のため, 適宜初年度と同様の行動・神経電位計測実験を実施した.特に,小脳の他,眼球運動速度蓄積機構(VSM)と呼ばれる脳内メカニズムが予測性眼球運動の獲得に重要な役割を果たすことが示唆・予測されたため,VSMと予測性OKRの関係を探るための実験も実施した.同時に,初年度の行動と神経細胞活動レベルの研究成果をまとめ,学術論文として執筆し,科学雑誌への投稿準備を終えている.
2: おおむね順調に進展している
上記4レベルの研究遂行手順のうち,初年度に1)行動レベルと2)神経細胞活動レベル,2年目の昨年度は3)神経ネットワークレベルの研究を重点的に進める計画であったが,ほぼその計画通りに進行している.1)と2)の動物実験は,本研究プロジェクトの根幹をなすことから,初年度・昨年度に引続き,今年度以降も標本数を増やすことを主目的にコンスタントに実施するが,その中で予想外の興味深い結果も得られ始めている.また,本研究プロジェクトに関連した新たな国際共同研究(米国University of Washington)も開始できたため,実験動物の対象範囲を拡大し,動物種間の比較と神経ネットワークレベルのモデル化も新たに進めている.これらの点を踏まえ,「おおむね順調に進展している」状況ながら,当初の計画以外に進展している要素も生まれている.
平成30年度以降は,前年までの研究内容(研究目的1)から3)の内容)を補足的に継続しながら,主に研究目的における4) 工学的応用レベルの研究を進める.昨年度までに構築してきた視運動性眼球運動(OKR)モデルにさらにパラメータ調整などの改良を加えながら,その妥当性・有効性を確認する.その後,これまでに開発した手法 (Pinzon & Hirata, Front. Neural Circuits, 2014; 同, 2015) により, 実時間動作が可能なように小脳神経回路網モデル内の各ニューロンモデルを,スパイキングニューロンモデルから発火頻度モデルに変換する (モデルの簡略化・高速化) .次に,これを制御コントローラとしてLabVIEW(National Instruments)を用いて計算機上に実装し,外部機器制御が可能な実験系を整備する.このコントローラと実機制御実験系により,DCモータ,二輪倒立型ロボット,ドローン,制振自助具(パーキンソン 病患者向けスプーン)などの予測性適応制御実験を実施し,周期的な目標軌道に対し,予測性適応制御が実機において実現されることを実証する.これがうまく行かない場合,モデルの記述(特に小脳内のシナプス可塑性と,前庭神経核と小脳の閉ループの実装法など)や簡略化レベルと目標軌道条件を変更し,予測性適応制御が可能な条件を探索する.また,上記の研究により得られる成果をまとめ,学会・国際会議ならびに学術論文として国内外で発表する準備を進め,適宜発表する.
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (24件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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