研究課題/領域番号 |
16H02901
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
平田 豊 中部大学, 工学部, 教授 (30329669)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 視運動性眼球運動 / 速度蓄積機構 / 運動学習 / 予測性制御 / 魚類 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,我々の脳で実現される予測性適応運動制御の神経機構を理解し,それを工学的に実現して,ロボットや医療機器等の実機制御に応用することにある.本研究では,次の4つのレベルの研究を進め,この目的の達成を目指す:1) 行動,2) 神経細胞活動,3) 神経ネットワーク,4) 工学応用. 1)では,金魚を用いた視運動性眼球運動(OKR)周期同調実験を実施する.OKRの周期同調は1997年にMash & Bakerにより報告された予測性眼球運動であり,関連する神経経路の理解度の高さや現象の定量化のしやすさなどから,予測性運動制御の神経機構を探る上での好例と考えられる.2)では,金魚の周期同調学習前・中・後の小脳神経細胞活動を計測する.3)では,小脳神経回路を陽に記述したOKRモデルの構築と,周期同調学習シミュレーション解析を行う.4)では,小脳の数理モデルを実時間動作可能なように簡略化し,予測性適応制御コントローラとしての応用可能性を明らかにする. 本プロジェクト3年目の平成30年度は,上記3)と4)の研究を進めた.3)については,昨年度末までに構築した数理モデルを1)ならびに2)のアプローチによって新たに得られた知見を基に拡張し,予測性OKRを再現可能なモデルが一通り完成した(2019年7月に国際会議Computational Neuroscience Meetingで発表予定).4)については,FPGA(Field-Programmable Gate Array)上に小脳モデルを実装し,適応制御コントローラとして実時間実機制御を遂行するための準備を進めた. また,1)と2)の一部に関するこれまでの成果をまとめ2018年11月に学術論文としてJournal of Neuroscience誌に発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記4レベルの研究遂行手順のうち,初年度に1) 行動レベルと2) 神経細胞活動レベル,2年目は3) 神経ネットワークレベル,3年目は3)と4) 工学的応用レベルの研究を重点的に進める計画であったが,上記[研究実績の概要]の通り,ほぼその計画通りに進行している.1)と2)の動物実験は,本研究プロジェクトの根幹をなすことから,今年度以降も引続き標本数を増やすことを主目的にコンスタントに実施するが,その中で常に予想外の興味深い結果も得られている.また,本研究プロジェクトに関連した新たな国際共同研究(米国University of WashingtonならびにWashington University)も開始できたため,実験動物の対象範囲を拡大し,動物種間の比較と神経ネットワークレベルのモデル化も新たに進めている(科研費国際共同研究強化Bのプロジェクトとして採択).これらの点を踏まえ,「おおむね順調に進展している」状況ながら,当初の計画以外に進展している要素も生まれている.
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今後の研究の推進方策 |
本プロジェクト最終年度の2019年度は,前年までの研究内容(研究目的1)から3)の内容)を補足的に継続しながら,主に研究目的における4) 工学的応用レベルの研究をさらに進める.2018年度末までに一通り完成した予測性視運動性眼球運動(OKR)を再現可能な数理モデルに,パラメータ調整などの改良を加えながら,その妥当性・有効性を確認する.その後,2018年度に目処をつけたFPGA上への実装技術により,リアルタイム動作可能な人工小脳を完成させ,外部機器制御が可能な実験系を整備する.この人工小脳と実機制御実験系により,DCモータ,二輪倒立型ロボット,ドローン,制振自助具(パーキンソン病患者向けスプーン)などの予測性適応制御実験を実施し,周期的な目標軌道に対し,予測性適応制御が実機において実現されることを実証する. これがうまく行かない場合,モデルの記述(特に小脳内のシナプス可塑性と,前庭神経核と小脳の閉ループの実装法,予測性成分の実現法など)を変更し,予測性適応制御が可能な条件を探索する. また,上記の研究により得られる成果をまとめ,引き続き学会・国際会議ならびに学術論文として国内外で発表する準備を進め,適宜発表する.
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