研究実績の概要 |
2018年4,5,6,8,10,12月、2019年3月に北海道大学練習船うしお丸にて、北海道噴火湾で海洋観測を実施した。また、2018年6-7月に同大学練習船おしょろ丸にて、北部ベーリング海および南部チャクチ海で海洋観測を実施した。海洋表面から海底直上の水を鉛直的に採取して、有機ヨウ素ガス種(ジヨードメタン、クロロヨードメタン、ヨードエタン、ヨードメタン)の濃度を測定した。また、マルチプルコアラ―もしくはアシュラ採泥器を用いて、海底堆積物の柱状サンプルを採取した。堆積物表面から1cmごとに酸化還元電位とpHを計測したのちに、堆積物を切り分けて間隙水を絞り取った。間隙水中の栄養塩類、有機ヨウ素ガス種の濃度を測定した。北海道噴火湾では、2018年3月に珪藻のブルームが発生したのを確認しており、その1か月後から海底付近でヨードエタンの濃度が上昇して6月に最高濃度を記録した。噴火湾でもベーリング海でも、堆積物中では、表面0-1 cmでヨードエタンの濃度が著しく高いことを発見した。両海域とも、主な基礎生産者は植物プランクトンの大型珪藻類である。堆積物表面に降り積もった珪藻細胞が死滅・分解する際にヨードエタンが発生することが考えられた。2019年3月の噴火湾観測にて、珪藻ブルーム時に珪藻の懸濁物を集めて、珪藻細胞を微生物分解させる培養実験を行った。培養ボトルの中が無酸素になるとヨードエタンが発生することがわかった。新鮮な珪藻細胞に含まれる糖類がエタノール発酵して、ヨウ素分子と反応することでヨードエタンが発生する仮説を立てるにいたった。次に解決すべき課題は、海底付近でヨウ素分子が発生するメカニズムの解明である。これが沿岸海域におけるヨウ素循環解明の鍵になる。
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