研究実績の概要 |
海洋観測 2019年3,4,5,6,8,10,12月,2020年2月に北海道噴火湾にて、海洋観測を実施した。海水中の有機ヨウ素化合物の濃度を測定した。これまでの観測結果も合わせて、ヨードエタンの濃度が3~6月にかけて底層と中層で増えることがわかってきた。この傾向は4年連続で確認されていることである。2019年度は、ヨードエタンの増加のあとに、水塊の入れ替わりが無いにも関わらず、6~8月にかけて減少することに着目した。ヨードエタンが水中で減少するのはアンモニア濃度が低下した直後であることが明らかになった。基礎生産により発生した有機物が分解すると、窒素態栄養塩としてアンモニアが海水に再生する。海水中のアンモニアは微生物により急速に酸化分解される。噴火湾でも、珪藻ブルームの後に海水中でアンモニア濃度が上昇して、5月頃にピークを迎えることが明らかになっている。アンモニアを酸化分解する微生物は、アンモニア酸化細菌として知られている。アンモニア酸化細菌の中には、海水中にアンモニアが枯渇するとエタンを酸化することが報告されている。噴火湾の海水中でアンモニアが枯渇した後に、アンモニア酸化細菌がヨードエタンを酸化分解した可能性が考えられた。 室内培養実験 2019年3月の珪藻ブルーム時にプランクトンネット観測を行い、珪藻懸濁物を採取した。その珪藻懸濁物を冷凍保管して、培養実験のサンプルとして用いた。珪藻懸濁物をガラスボトルに密封して低温で約1か月培養した。酸素濃度をコントロールした実験区を設けたが、無酸素、有酸素、いずれの条件でも1週間以上経過するとヨードエタンが発生することが明らかになった。特定の微生物により、珪藻懸濁物が分解、ヨードエタンが発生するという、当初の仮説では説明できない現象が捉えられた。
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