研究課題
本研究では、森林・都市大気エアロゾルの有機態窒素に焦点を当て、元素分析と質量分析計を用いた化学構造に基づく組成および分子レベルの解析を行っている。これにより、植生起源の揮発性有機化合物(BVOCs)の主要成分であるテルペン類から生成する有機態窒素エアロゾルの化学形(酸化・還元形態)および有機物に含まれる窒素の起源と、粒子生成に至る反応過程を明らかにすることを目的としている。平成28年度は、北海道大学苫小牧研究林で取得した実大気エアロゾルのサンプルを用い、エアロゾル窒素の起源情報を持つ水溶性全窒素の同位体比について分析法を検証した。また、同じサンプルを用い、液体クロマトグラフィー/質量分析計(LC/MS)による含硫化窒素(OSN)化合物および有機態窒素に関連した含硫黄有機化合物(OS)の分析法を確立した。チャンバー実験で得られたサンプルの質量スペクトルとの比較から、実大気エアロゾルサンプル中にピン酸、3-MBTCA、および4種類のOSを同定した。ピン酸および3-MBTCAについては、ガスクロマトグラフィー/質量分析計(GC/MS)を用いた従来法の測定結果と比較し、測定の確かさについて確認した。試験的に測定したイソプレンエポキシジオール(IEPOX)由来OSの季節変動がGC/MSで測定したイソプレン二次有機エアロゾル(SOA)マーカーの季節変動と対応していることを明らかにした。さらに、BVOCs起源を示唆するグリオキサールおよびメチルグリオキサール由来のOS、IEPOX由来ニトロオキシOSの生成にはイソプレンだけでなく人為起源汚染物質の影響が強いことが示唆された。このように、大気エアロゾルのIEPOX由来OSおよび窒素・炭素の元素分析とその同位体測定については、実大気エアロゾルサンプルの測定およびデータの相互比較が可能な段階まで進んでいる。
2: おおむね順調に進展している
植生由来エアロゾル中の有機態窒素であるIEPOX由来ニトロオキシOSの化学組成及びエアロゾルの窒素同位体測定に関して高い精度での分析手法を確立し、かつ相互比較のための試料分析も進んでいる。当初の研究計画について概ね達成されている。
森林大気で取得したエアロゾル試料を用い、含窒素(ON)・含硫化窒素(OSN)化合物を中心とする分子レベルでの分析を行う。前年度の検出したイソプレンエポキシジオール(IEPOX)由来ニトロオキシOS等の季節変化について、イソプレンSOAトレーサと硝酸塩、硫酸塩の変動との対応を調べる。IEPOX由来OSNの生成に対し、イソプレン以外に人為起源汚染物質の影響や、エアロゾル含水量および酸性度との対応についても詳細に調べ、含窒素有機物の起源について引き続き研究を推進していく。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Atmospheric Chemistry and Physics
巻: 16 ページ: 7695-7707
10.5194/acp-16-7695-2016
Environmental Science & Technology
巻: 50 ページ: 10351-10360
10.1021/acs.est.6b01643