研究課題/領域番号 |
16H02933
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
松田 和秀 東京農工大学, 農学部, 教授 (50409520)
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研究分担者 |
反町 篤行 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (60466050)
堅田 元喜 茨城大学, 地球変動適応科学研究機関, 講師 (00391251)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 環境質定量化 / 反応性窒素 / 大気沈着 / 乾性沈着 / エアロゾル / PM2.5 / 数値モデル / 森林 |
研究実績の概要 |
東京郊外に位置するコアサイト(FM多摩丘陵)の落葉広葉樹林に設置された観測鉄塔において、前年度に開発したデニューダ・緩和渦集積測定システムを用いて、ガス・粒子状反応性窒素の乾性沈着フラックスの長期観測を実施した。着葉期における週毎観測の結果、沈着速度の大きさは、硝酸ガス>PM2.5硝酸塩>PM2.5硫酸塩の順に大きかった。また、多層大気-植生-土壌モデルに、硝酸・アンモニアガスおよびPM2.5硝酸塩・アンモニウム塩の乾性沈着とガス-粒子転換の過程を考慮し、コアサイトに適用した。ガス-粒子転換を考慮した場合としない場合の計算結果を比較したところ、硝酸ガスおよびPM2.5硝酸塩の濃度がガス-粒子転換の影響を最も受けやすいことが明らかとなった。 比較サイトとして、冷温帯の清浄地域に位置する天塩研究林(北海道)において、2017年7月21日から8月7日の間、集中観測を実施した。カラマツ若齢林に設置された観測鉄塔において、デニューダ法およびフィルターパック法による濃度勾配測定を実施した。観測の結果、PM2.5硫酸塩にくらべてPM2.5硝酸塩の沈着速度が大きいという結果が得られた。FM多摩丘陵と同様に、日射を直接受け温度が上昇した葉面近傍で、PM2.5硝酸塩(硝酸アンモニウム粒子)が硝酸ガスにガス化して効率よく沈着することにより、PM2.5硫酸塩(硫酸アンモニウム粒子)よりも沈着速度が大きくなったと考えられ、異なる気候帯、汚染度の地域においても同じ沈着メカニズムが働くことが明らかとなった。また、高度別エアロゾル粒子サンプリングラインの自動切替装置を開発し、天塩研究林における集中観測に用いた結果、粒子の個数濃度の鉛直プロファイルは粒径に依存し、日内変化することが確認された。さらに、アンモニアおよび粒径別粒子個数濃度において、沈着、発生の双方向性が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、FM多摩丘陵において前年度に開発したデニューダ・緩和渦集積測定システムを用いた乾性沈着フラックス観測を継続するとともに、環境の異なる別の森林(天塩研究林)においてはじめて乾性沈着観測を実施することができた。天塩研究林は、冷温帯の清浄地域に位置し、このような環境下においても半揮発性粒子(硝酸アンモニウム)が樹冠近傍で揮発し、沈着が促進されるという観測結果を得たことは大変意義深いと考えられる。FM多摩丘陵の長期観測では、これまでのPM2.5硝酸塩・硫酸塩の沈着速度に加えて、新たに硝酸ガスの沈着速度を得ることができた。硝酸ガスの沈着速度はPM2.5硝酸塩の沈着速度よりも大きく、PM2.5硝酸塩(硝酸アンモニウム粒子)が葉面近傍でガス化した後、硝酸ガスとして沈着していることを実証することができた。 大気-植生-土壌多層モデルの開発では、乾性沈着とガス-粒子転換をモデル化し、森林においてガス-粒子転換が反応性窒素の乾性沈着過程に影響を及ぼすことを明らかにした。さらに、高度別エアロゾル粒子サンプリングラインの自動切替装置の開発に成功し、粒子個数濃度の鉛直プロファイルは、粒径および時間依存性を示すこと、沈着、発生の双方向性を持つことが示され、大気-植生-土壌多層モデル解析のための貴重なデータを取得できた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのFM多摩丘陵および天塩研究林での観測経験および大気-植生-土壌多層モデル解析の結果を踏まえ、観測条件の最適化を行ったうえで、コアサイトであるFM多摩丘陵において最終の集中観測を実施する(7~8月頃実施予定)。この集中観測では、これまで主に窒素酸化物について成果を得てきたことを踏まえ、特にアンモニアの観測を充実させる。 天塩に続き、異なる環境下における再現性を検証するために、熱帯に属するタイ国サケラート生態系保護区の落葉広葉樹林において観測を実施する。6月に第1回現地調査を行い、観測設備を整備し、観測システムを構築する。サケラートでの観測にあたっては、同施設を管理している研究協力者(Phuvasa Chanonmuang・サケラート環境調査局)の協力を得る。また、12月に第2回現地調査を行い、研究協力者と観測結果について議論する。 平成29年度に改良を施した大気-植生-土壌多層モデルをコアサイトと比較サイトに適用し、ガス状および粒子状反応性窒素の沈着速度と鉛直プロファイルを計算する。その結果を解析し、気候帯によるガス-粒子転換過程の重要性を調べる。また、既往の乾性沈着推計モデルにガス-粒子転換過程を考慮した新しいモデルの開発を目指す。 研究組織のメンバーによる本研究の成果検討会を開催する。さらに、本研究の成果を広く発表するために一般参加可能な講演会(大気環境学会酸性雨部会講演会を予定)を開催する。
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