研究課題/領域番号 |
16H02939
|
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
寺田 竜太 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 教授 (70336329)
|
研究分担者 |
嶌田 智 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (40322854)
ニシハラ グレゴリーナオキ 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 准教授 (40508321)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 藻場 / 環境ストレス / 環境変動 / ストレスマーカー / 藻類 / 海藻 / 光合成 / 生産力 |
研究実績の概要 |
「海の森」である藻場生態系は様々な環境ストレスの複合作用と応答で成立している。地球規模の環境変動に伴うストレスの量的・質的変化により,今後の藻場の植生変化,衰退および生産力の低下が懸念されている。本課題では,ストレス応答に伴う生理的・遺伝的サインを解析することでストレス状況を迅速に把握するための診断方法を確立し,群落全体の生産力の評価にストレス応答の要素を加えることで,状態空間モデルを用いた生産量推定の高度化を目指した。 材料には,亜寒帯から温帯,亜熱帯,熱帯の藻場を構成する褐藻コンブ類やホンダワラ類,海草類,下草として生育する紅藻アマノリ類,オゴノリ類,キリンサイ類等を用いた。生理的な変化を迅速に把握するため,光量や温度(凍結含む),乾燥等の環境ストレスの影響について,パルス変調クロロフィル蛍光測定や酸素電極を用いて評価した。特に,コンブ類やホンダワラ類,キリンサイ類では,温度と光の複合ストレスが光合成活性に与える影響について評価し,低温と光の複合ストレスが光合成活性の低下に影響を与えることが示唆された。また,各種ストレス条件下で発現変動する遺伝群を網羅的に探索・機能推定するために,分布南西限界の福岡と東北限界の宮城のアラメ胞子体から遊走子を放出させ,配偶体と胞子体の培養株を作出した。予備的な解析では,両個体群には水温に関する生育特性の違いが生じていると示唆された。 藻場が衰退する場合に,植生が変化し,それに伴って生産力も減少する。藻場の総一次生産力を定量化するために,ホンダワラ類と海草(アマモ)の天然群落で水中測定を実施した。毎月,溶存酸素濃度,光量子量,水温等の環境要因を7日間の連続観測を行い,状態空間モデルを用いてそれぞれの藻場の総一次生産力を推定した。その結果,アマモ場はガラモ場の約1.5倍の生産力であると明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画した内容に基づいて研究を遂行しており,各分担者がそれぞれの担当分の年度目標を達成した。研究に関する打ち合わせもメール等を介して頻繁に行うと共に,9月に中間発表会を鹿児島で行った。成果については,初年度にもかかわらず,既に英文国際誌に論文が4報刊行(受理)され,学会発表は国際学会を含めて計8回発表した。以上の結果より,順調に進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
環境省モニタリングサイト1000を行っているサイト等において,水温や光量等の生育環境データを取得すると共に,藻場を構成する各種の環境ストレスに対する生理的・遺伝的サインを明らかにする。具体的には,水温の季節変化をロガーによって明らかにすると共に,海草群落については,光量子ロガーを用いて発芽期から花および種子形成に至る積算光量を連続測定する。また,異型世代交代の生活史を持つコンブ類,アマノリ類,モズク類等の海藻については,各世代の光合成活性に対する環境ストレスの応答を明らかにする。特に,ホンダワラ類やアラメ・カジメ類の分布北限および南限の個体群に注目し,光や温度等の複合ストレスが生理状態に与える影響を明らかにする。さらに,各種ストレス条件下で発現変動する遺伝群を網羅的に探索・機能推定するために,両者で差が出来る水温条件下をより詳細に解析に,その条件下で比較RNAseqを行う。RNAseqの結果から,発現量に関して統計的に有意に差のある遺伝子群をスクリーニングし,それらの機能推定を行う。 天然群落の水中測定に基づく藻場の総一次生産力推定では,引き続き定点観測を継続しながら,観測地点を増やすこと予定している。大村湾は超閉鎖型の湾であるため,環境は特殊であると考えられる。観測した生産力の動態を一般化するためには,外洋に面した藻場生態系の観測も取り入れる予定である。
|