研究課題
「海の森」である藻場生態系は様々な環境ストレスの複合作用と応答で成立している。地球規模の環境変動に伴うストレスの量的・質的変化により,今後の藻場の植生変化,衰退および生産力の低下が懸念されている。本課題では,温度や光などの環境ストレスに対する海藻,海草類の生理的な応答を迅速に把握することを目的とすると共に,ストレス下で発現する遺伝子を把握し,天然藻体でそれら発現量を解析することで,迅速に藻場のストレス状態を把握できるシステムの構築を目指している。また,藻場の総一次生産量を通年計測することで,天然環境における総一次生産量の動態を明らかにすることも目的とした。材料には,亜寒帯から温帯,亜熱帯,熱帯の藻場を構成する褐藻コンブ類やアラメ類,ホンダワラ類,海草類,下草として生育する紅藻アマノリ類,オゴノリ類,キリンサイ類,モズク等を用いた。生理的な変化を迅速に把握するため,光量や温度(凍結含む),乾燥等の環境ストレスの影響について,パルス変調クロロフィル蛍光測定や溶存酸素センサーを用いて評価した。特に,コンブ類やホンダワラ類,キリンサイ類では,温度と光の複合ストレスが光合成活性に与える影響について評価し,低温と光の複合ストレスが光合成活性の低下に影響を与えることが示唆された。さらに,スジメやオキナワモズク等の異型世代交代の種類では,世代間の応答の相違点について明らかにした。また,アラメを用いてRNA-seqに供するサンプルを準備するためのRNA抽出を試みた結果,RNeasy Plant Mini Kitという変速方法で,基準を上回ることが出来た。藻場が衰退する場合に,植生が変化し,それに伴って生産力も減少する。藻場面積で標準化した場合,予備解析における結果は,アマモ場の方が高い生産量を示し,天然環境における藻場の総一次生産量の推定は十分可能であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
計画した内容に基づいて研究を遂行しており,各分担者がそれぞれの担当分の年度目標を概ね達成した。研究に関する打ち合わせも代表者が分担研究者の大学を訪問すると共に,学会会場等で打ち合わせを行った。成果については,環境省モニタリングサイト1000沿岸域調査に連動した研究成果として,国際誌7報を含む8報の査読制論文が公表(受理)された。学会発表は国際学会12回を含めて計21回発表した。
環境省モニタリングサイト1000を行っているサイト等において,水温や光量等の生育環境データを取得すると共に,藻場を構成する各種の環境ストレスに対する生理的・遺伝的サインを明らかにする。具体的には,水温の季節変化をロガーによって明らかにする。また,異型世代交代の生活史を持つコンブ類,アマノリ類,モズク類等の海藻については,各世代の光合成活性に対する環境ストレスの応答を引き続き明らかにする。特に,ホンダワラ類やアラメ類の分布北限および南限の個体群に注目し,光や温度等の複合ストレスが生理状態に与える影響を明らかにする。さらに,各種ストレス条件下で発現変動する遺伝群を網羅的に探索・機能推定するために,両者で差が出来る水温条件下をより詳細に解析し,その条件下で比較RNAseqをおこなう。RNAseqの結果から,発現量に関して統計的に有意に差のある遺伝子群をスクリーニングし,それらの機能推定をおこなう。天然群落の水中測定に基づく藻場の総一次生産力推定では,現在の測定を継続し,データ量を蓄積する。今後は,新たなデータを加えて天然環境における総一次生産量の推定の制度を向上させ,ガラモ場とアマモ場がどの程度炭素固定に貢献し,どのように環境変動に応答するのかを推定する
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 12件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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http://www.phycollab.org/