本研究では、植物プランクトンとそれに寄生する多様な菌類に焦点をあて、様々な湖沼における両者の宿主寄生者関係を遺伝子レベルで把握するとともに、宿主-寄生関係に影響する環境要因を明らかにすることを目的とした。また植物プランクトンへの菌類による感染症の蔓延と環境要因との関係を予測し、実験とモデルにより検証することで、変動環境下における感染症の動態解明を目指した。最終年度の2019年度は後者の実験とモデル検証に取り組むとともに、これまでの成果を公表することに努めた。 感染症の動態に影響しうる環境要因(水温、栄養塩濃度、捕食者)を3つの湖を対象に実験的に操作し、感染症蔓延との関係を調べた。その結果、栄養塩がツボカビを含めた菌類群集に最も影響を与えるが、富栄養な湖では水温や動物プランクトンの影響が顕著に出た。 動物プランクトンがツボカビの寄生率に与える影響を実験とモデルにより検証した。その結果、ワムシはツボカビを捕食するがツボカビの藍藻に対する寄生率は減少させないことが判明した。数理モデル解析により、ワムシはツボカビを餌源とする限り、餌を極端に減少させることができないため、寄生率に影響を与えないことが明らかになった。一方、ミジンコがツボカビと共に宿主の珪藻を捕食する場合には、寄生率が顕著に減少することも明らかになった。これらの結果から、動物プランクトンがツボカビ感染症の蔓延に影響するかは、その摂食量や餌要求量、餌の大きさが大きく影響することが示唆された。 これらの成果を論文としてまとめると共に、国際学会などで発表した。
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