研究課題
これまでに世界最高水準の安定同位体比分析計(IRMS)を用いた炭酸塩の超高解像度環境解析の研究基盤(MICAL3c)を確立し,複数の共同研究を伴う積極的な応用研究を開始してきた.本研究課題は,(1)これまでの相対変動解析を主体とした生物源炭酸塩の安定同位体比による環境変動解析から,海洋そのものの同位体値復元に基づく絶対変動解析への変革を推進すること,そのために(2)境界領域・複合分野へ分析技術の適用範囲を広げ,特に水産学分野への展開を加速し,(3)世界唯一の分析技術に対する国内外の幅広い需要に応えるために確固 たる研究基盤を維持発展させることを本研究の目的としている.本年度の代表的な成果は,まず,魚類耳石の同一群の同位体プロファイルを個体ごとに明らかにすることによって,群れの形成時期や回遊経路のバリエーションを見出すことに成功した.このことは,同位体値の個体分散指標が生態情報の抽出につながることを示すものでもある.また,有孔虫の個体別分析技術を用いて参画した共同研究では,遺伝子抽出・MicroX線CTで形態計測した個体からの安定同位体比情報の抽出方法を確立し論文として公表するに至った.分析技術の高度化に関しては,昨年度導入したキャビティリングダウン分光方式安定同位体比分析装置(CRDS)の高度化と高精度化を推進し,日本周辺海域における海水同位体比のマッピングを推進した.結果,年間の実分析数は1500サンプル以上と量産体制を確立し,さらに分析手法の高度化により安定性に難があるとされてきた海水の分析で,dDで±0.2‰以下,d18Oで±0.03‰以下と高精度での長期安定分析を実現した.結果的に一元管理のもとでの炭酸塩総合分析体制を構築し応用研究への基盤強化につながった.海水の分析結果は,日本海における古環境解析や魚類回遊経路解析の基礎データとして活用へとつながる.
1: 当初の計画以上に進展している
今年度は,これまでの応用研究の成果を論文5編・学会発表25件として公表した.また,研究基盤の整備と水同位体比分析の高度化を進めた結果さらに応用分野が広がり,炭酸塩高解像度分析に加えて,海水の高精度同位体比マッピングへとつながりつつある.共同研究依頼への応答も昨年同様に100人近い来訪者の受入と,新たな研究展開を継続している.研究代表者の石村は独自の技術開発と研究成果が評価され(独)国立高等専門学校機構の教員3000人以上の中から研究部門で表彰をいただいた.
前年度の研究内容を継続発展させ,分析システムの最適化にむけて,新たな分析巣システムの設計を推進し小型汎用化システムの設計をおこなう.また,高精度の微量炭酸塩安定同位体比分析を維持するため,システムの調整と消耗部品の定期交換をおこなう.これまで実現した微量切削と微量分析との融合による高解像度d18O解析の実現は,今後の分析作業の最適化を通じてさらなる高度化が期待できる.この高解像度解析で得られた成果は,堆積物試料や鍾乳石の微小領域分析による高解像度環境変動解析,そして,耳石解析に活用し,回遊モデルのチューニングや妥当性の検証など水産資源の保全と動態解析への貢献に直結する.各研究対象に対してどこまで解像度を高められるかを明らかにし,本研究申請以降の次期研究ステージでの応用研究の発展に結びつける.
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 12件)
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