研究課題
本研究では、ヌクレオチド除去修復(NER)を阻害する化合物をケミカルライブラリーから見つけ、細胞内ターゲット(新規修復関連因子)の同定と阻害機序の解明を通して、細胞内NER反応の全容解明に寄与することを目的としている。また、これらの化合物の癌治療への応用も検討しており、シスプラチン等のDNA傷害性抗がん剤の作用増強剤や、他のDNA損傷応答(DDR)経路の欠損との合成致死剤の可能性を追究している。2年目の研究成果は以下のとおりである。(1)細胞内NER反応のメカニズム解析先行している化合物A6 によるERCC1分解とスピロノラクトン(SP)によるXPB分解に関わるE3リガーゼを初年度に同定したが、今年度は各々のE3リガーゼ複合体の構成因子をすべて明らかにし、両者で基質レセプターのみが異なることを明らかにした。また、この反応過程に関わると予想されるプロテインキナーゼを絞り込み、XPBに関してはそのリン酸化部位も同定した。一方、新しい天然化合物ライブラリーを用いたスクリーニングにより、NER阻害活性を有する新たな2種の化合物の同定に成功し、その作用メカニズムの解析をスタートした。(2)癌治療への応用の検討今年度は、A6と他のDDR因子阻害剤との併用により合成致死を引き起こすことができるか検討を行った。その結果、2種類のDDR因子阻害剤との併用で著しい抗腫瘍作用が認められ、そのメカニズムについて解析している。また、初年度の定量的構造活性相関解析からデザインした仮想高活性誘導体を実際に合成してアッセイしたところ、予想どおり10倍以上高いERCC1分解誘導活性をもつことがわかった。
2: おおむね順調に進展している
A6とSPの作用メカニズムに関して、各E3リガーゼを同定でき、この反応に関わるプロテインキナーゼも絞り込めたため、着実に進展しており全容解明に近づいている。また、新しいライブラリースクリーニングから、新規のNER阻害化合物を2種同定することができ、これまでの解析によりA6やSPとは異なる作用メカニズムと考えられ、今後の展開が期待される。さらに、癌治療への応用面でも、シスプラチンの抗腫瘍効果に対する増感作用だけでなく、他のDDR因子阻害剤との併用による合成致死の方向性も有効であることがわかり、順調に進展している。
A6とSPの作用メカニズムにおけるプロテインキナーゼの役割を明らかにするべく、ERCC1およびXPBのリン酸化部位(XPBは同定済み)とユビキチン化部位を同定し、その変異体を安定発現する細胞株を作製してメカニズムの全容解明を完結させる。また、これらの細胞株で各因子の細胞内レベル、NER能、紫外線・化学物質に対する感受性などを評価し、この分解系の生物学的意義を明らかにする。一方、新しく見出した2種のNER阻害化合物については、これまでの経験を活かして作用メカニズムの早急な解明を試みる。NER反応のどのステップに作用するかはすでに絞り込んでおり、この知見をもとに解析を進展させる。また、癌治療への応用に関しては合成致死戦略を重点的に押し進め、特に相乗効果が認められた2種類のDDR因子阻害剤について、その合成致死メカニズムを明らかにするとともに、その経路に異常があるがん細胞でA6単剤による抗腫瘍作用が見られるかも検討する。さらに、新しく合成した10倍強の高活性類縁体の応用実験への活用も試みる。
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Scientific Reports
巻: 7 ページ: 13808
10.1038/s41598-017-13695-4
http://www.p.kanazawa-u.ac.jp/~iden/