研究課題
DNAを一過的にDNA二重鎖切断(DSB)し再結合を行うトポイソメラーゼII型酵素(Top2)が、細胞内で触媒反応に失敗することがある。DSB端の再結合に失敗したTop2は、DSB末端に共有結合したままになる(難治性DSB, Top2cc)。難治性DSB, Top2ccの修復経路は未解明である。2016年に我々は、Mre11ヌクレアーゼが難治性DSB末端からTop2を除去することを明らかにした(Hoa, et al, M.Cell)。2016年度後半からヒト乳腺MCF-7細胞(エストロゲン受容体陽性)とヒトB細胞(TK6)を使ってBRCA1欠損細胞を作製し、(1)G1期におけるTop2cc除去にBRCA1が関与すること、(2)BRCA1はMre11のTop2ccサイトへの結合を促進することを明らかにした。さらにBRCA1欠損MCF-7細胞のエストロゲン応答を調べたところ次のことがわかった。(1)エストロゲン処理によってG1期でTop2ccが蓄積すること、(2)BRCA1欠損が、女性ホルモンの細胞に対する遺伝毒性を増強させることを明らかにした。BRCA1が欠損した細胞にエストロゲン処理を行うと、染色体断裂が野生型に比べて頻発する。BRCA1欠損細胞では、エストロゲン処理によってBRCA1欠損による女性ホルモンの細胞毒性は、エストロゲンによってできるTop2ccの除去ができないためだと考えられる。これらの結果は、BRCA変異がもたらす女性臓器特異的発がんに関与している可能性がある。これらの結果をまとめて論文投稿中である。
1: 当初の計画以上に進展している
研究実績の概要に記載した通り、現在論文投稿中である。引き続き、静止期にある細胞の難治性DSB, Top2ccの修復経路の解明を継続する。特に本年度は次のことを明らかにする。(1)Top2ccができた場所にBRCA1がどのように結合するのか(2)エストロゲンの遺伝毒性をBRCA1欠損マウスを用いて証明することである。課題(1)は、現在のところBRCA1がTop2ccサイトに結合することが、Mre11ヌクレアーゼの結合を促進するため、BRCA1がどうやってTop2ccサイトに結合するかを調べることは、Top2ccの修復経路のメカニズム解明に必須である。課題(1)の研究の端緒として申請者はTop2ccサイトにできるポリユビキチン鎖の検出に成功した。このユビキチン化の意義とBRCA1の関係性を明らかにする。(2)に関しては、NIHのAndre Nussenzweig教授と共同研究により、BRCA1欠損マウスにおいてエストロゲン腹腔投与によってエストロゲン受容体陽性の乳腺組織(ルミナール細胞)でDSBが蓄積することを見つけた。この研究は、Top2cc修復欠損がもたらす発がんの発症メカニズムを明らかにするために必須である。
BRCA欠損によって生じる女性臓器特異的がん、乳がん卵巣がん発症のメカニズムはわかっていない。申請者は、BRCA欠損によるエストロゲンの遺伝毒性の増強が発がんに関与するという仮説のもとに今後研究を展開する。静止期にある細胞の難治性DSB, Top2ccの修復に関与するTDP2酵素は、MRE11酵素と独立して機能する。スペインのCABIMER研究所Felipe教授と共同研究によりTDP2欠損マウスを用いたエストロゲン、アンドロゲン(男性ホルモン)投与による発がん実験を開始する予定である。
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