研究課題/領域番号 |
16H02959
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
鹿園 直哉 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 量子生命科学研究部, 部長(定常) (10354961)
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研究分担者 |
佐藤 達彦 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力基礎工学研究センター, 研究主幹 (30354707)
森林 健悟 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 量子生命科学研究部, 上席研究員(定常) (70354975)
赤松 憲 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 量子生命科学研究部, グループリーダー(定常) (70360401)
甲斐 健師 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力基礎工学研究センター, 博士研究員 (70403037)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イオンビーム / 二本鎖切断末端 / エネルギー付与 |
研究実績の概要 |
これまで放射線生物影響に関与する最も重要なDNA損傷として二本鎖切断(DSB)が研究されてきた。しかしながら、放射線によって誘発される「生物影響に関与するDSB」の分子的実体は分かっておらず、放射線、特にイオンビーム生物影響メカニズムの詳細は不明な点が多い。昨年度に引き続き、本年度はDSB生成機構及びDSB末端の化学構造調べる研究を進めた。 DSB生成機構における研究においては、様々なイオン種・エネルギーのイオンビーム照射後に分子の電離によって生じる分子イオンが作り出す電場が二次電子を束縛する状態を計算し、その時生じる電場と動径方向の距離の関係式を導出した。また、粒子・重イオン輸送計算コード(PHITS)を利用した放射線DNA損傷評価に関して、低エネルギー電子の飛跡構造計算機能に対する様々な出力機能を開発した。この機能により、DNA二本鎖切断生成に関わる電離や電子的励起の衝突分布が評価可能となった。さらに、イオン飛跡周辺の動経方向線量を計算できる簡便式をPHITSに組み込むアルゴリズムを考案した。これらの開発した計算コードを用い、イオンビーム照射後DNA損傷生成にかかわる現象のシミュレーションを進めた。 DSB末端の化学構造を調べる研究では、イオンビーム、及び、対照となるガンマ線をプラスミドDNA水溶液に照射し、細胞内と同程度のラジカル捕捉能を持つ水溶液中におけるに生じるDSB、一本鎖切断(SSB)、塩基損傷(8-oxoG)、脱塩基部位の収率を調べる実験を開始した。一方、DSB末端構造を調べるため、非相同末端結合に関与するKuタンパク質がDSB末端を認識・結合する程度を調べる実験を行い、Kuが制限酵素切断されたDSB末端を有するlinearのプラスミドDNAに特異的に結合することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イオンビーム照射後のエネルギー付与に関して、計算コードを高精度化・高度化することができている。また、線質の異なる放射線を用いてDSB収率を測定する実験、及び、修復酵素によるDSB末端認識を調べる実験を開始した。研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はDNA損傷生成機構の詳細に迫るため、軌道付近のnmオーダーの動径線量分布を表す近似式を粒子・重イオン輸送計算コード であるPHITSに組み込んだ線量分布計算コードを用い、様々なイオン種、エネルギーのイオンビームにおける精密な動径線量を評価する。また、電子線の計算コードを基盤として、イオンビーム照射後の電離・励起の空間分布、及び、収率の計算に基づいたDNAへの直接作用を明らかにする計算を実行する。さらには間接作用の寄与を調べるため、ラジカル生成評価のための計算コードの開発に着手する。 一方、DSB末端構造の解析においては、様々な線質の放射線を用いて、塩基損傷、脱塩基部位、鎖切断等のDNA損傷収率を調べ、その情報をもとにDSB末端構造を推定する。また異なる線質の放射線誘発DSB末端に対するKuタンパク質の結合の程度を調べることにより、DSB末端構造の修復特性に関する知見を得る。
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