研究課題/領域番号 |
16H02961
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
黄 基旭 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (00344680)
|
研究分担者 |
外山 喬士 東北大学, 薬学研究科, 助教 (50720918)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | メチル水銀 / プトレシン / 毒性 |
研究実績の概要 |
本申請者らは、メチル水銀を投与したマウス脳内でプトレシンのレベルが増加し、この条件ではプトレシン合成酵素であるornithine decarboxylase (ODC) の活性が上昇していることを見出している。また、プトレシンの培地中への添加がマウス神経芽細胞のメチル水銀毒性を軽減したことから、ODC活性の上昇がメチル水銀毒性に対する防御応答である可能性が示唆されている。そこで本年度では、メチル水銀によるODC活性の上昇に関わる分子機構について検討した。 ODC活性の上昇が認められた濃度のメチル水銀でマウス神経芽細胞を処理したところ、ODC mRNAレベルは変動せず、その蛋白質レベルが増加した。そこで、ODC高発現プラスミドをマウス神経芽細胞に導入したところ、ODC活性の上昇が認められた。シクロヘキシミド(蛋白質合成抑制剤)の存在下において、メチル水銀はODC蛋白質の分解を抑制した。また、プロテアソーム阻害剤の存在下においてODC蛋白質レベルが増加し、本条件ではメチル水銀によるODC蛋白質レベルの増加がほとんど認められなかった。これらのことから、メチル水銀はプロテアソームでのODC蛋白質の分解を抑制することによってODC活性を上昇していることが明らかになった。しかし、メチル水銀はODC蛋白質のユビキチン化レベルにはほとんど影響を与えなかったから、ODC蛋白質のプロテアソームでの分解にODC蛋白質のユビキチン化は関与しないと考えられる。そこで、ODC結合蛋白質であるNQO1の阻害剤であるdicoumarolで前処理したところ、メチル水銀によるODC蛋白質レベルの増加が認められなくなった。また、メチル水銀処理によってODCとNQO1との結合レベルが増加した。以上のことから、メチル水銀はODCとNQO1の結合促進を介してODC蛋白質を安定化させることによってその活性を上昇していることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの本申請者らの研究により、生体はメチル水銀の侵入を感知し、それに応答してODCの活性を上昇させることでメチル水銀毒性から自身を防御している可能性が示唆されている。そこで本研究では、メチル水銀によるODC活性上昇の機構、および、ODCの代謝産物であるプトレシンが示すメチル水銀毒性軽減作用に関わる分子機構を明らかにすることを最終目的として実施している。本年度の研究により、メチル水銀はODC蛋白質のプロテアソームでの分解を抑制することによってその活性を上昇させていること、そしてODC結合蛋白質であるNQO1がメチル水銀処理によってODCとの結合が促進され、この結合がODCのプロテアソームでの分解を抑制していることを明らかにすることができた。プトレシンが示すメチル水銀毒性軽減作用に関わる分子機構については実験途中であるものの、以上のように今後本研究を推進していく上で貴重な知見を得ることができたことから、本研究は計画に従って「概ね順調に進展している」と判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究内容をさらに発展させて、以下のように、機構解明研究を進める。 1.プトレシンが示すメチル水銀毒性軽減作用に関与するアポトーシス誘導経路の特定 本申請者らは、プトレシンがメチル水銀によるアポトーシス誘導を抑制すること、および、アポトーシスの誘導経路の中でメチル水銀によって活性化された内在性アポトーシス誘導経路がプトレシンによって抑制されていることを見出している。そこで、マウス神経幹細胞由来のC17.2細胞を用いて内在性アポトーシス経路として知られているミトコンドリアを介した経路と小胞体を介した経路について詳細に検討する。さらに、特定された経路に対するプトレシンの影響をプトレシンの添加(およびプトレシン合成酵素(ODC)の高発現)またはODC阻害剤の添加(およびODCの発現抑制)によって検討する。 2.プトレシンが示すアポトーシス抑制作用に関わる分子機構 プトレシンのようなポリアミンはRNA と相互作用することによって蛋白質合成を促進することや、トランスグルタミナーゼによって蛋白質のグルタミン残基とイソペプチド結合を形成し、蛋白質の機能や性質を変化させることが示唆されている。したがって、1の検討によって特定されたアポトーシス誘導経路に関わる因子の中にはプトレシンによってその活性が調節される因子が含まれている可能性が考えられる。そこで、特定されたアポトーシス誘導経路に関わる全ての因子の活性にプトレシンの添加が与える影響を主にイムノブロッティングにより検討し、プトレシンによって活性が変動されるアポトーシス関連因子(X因子)を同定する。
|