研究課題
本年度における研究成果は主に以下の3項である。1)河川工作物による環境改変が通し回遊魚を中心とした淡水魚類群集に及ぼす影響: 茨城県北の4河川を対象として、各河川の流程最下流部に設置された河川工作物(以下、堰とする)の上下区間で電気ショッカーによる魚類調査と物理環境(水深,流速)の調査を行った。捕獲された16魚種のうち、7種が通し回遊魚、7種が純淡水魚、2種が周縁性淡水魚であった。4河川の堰上区間の全魚種及び通し回遊魚の多様度(H’)は、堰下区間よりも有意に低かった。AICの値に基づくGLMのベストモデルは、堰の存在が全魚種及び通し回遊魚の多様度に有意な負の効果を及ぼすことを示した。水深と流速の2つの物理環境要因の平均値を基に算出された調査地間のユークリッド距離と魚種構成の非類似度指数(Bcd)との間には、全魚種及び通し回遊魚ともに有意な正の相関が認められ、Pearsonの相関係数の正の傾きは、通し回遊魚でより顕著であった。これらの結果から、堰上区間における通し回遊魚の多様度や生息個体数の減少が、堰の落差による魚類の上流への移動阻害だけでなく、堰の存在を介して生じる堰上区間での魚類の生息環境上の改変にも起因することが示唆された。2)PITタグを用いた底生魚類の移動阻害実態: 昨年度に引き続き藤井川の上流域でPITタグ装着個体の河川工作物(落差40cm+75cm)の上下区間の底生魚類カジカ大卵型の河川内移動を周年にわたって追跡し、工作物の上流区間から下流区間への一方向的な移動の存在を確認した。3)鰭サンプルによる安定同位体分析の有効性の検討: 安定同位体分析では、底生魚類を中心とした8種について鰭と筋肉の炭素・窒素同位体比の関係について検証し、高い決定係数を伴った回帰式を得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
安定同位体分析では、底生魚類を中心とした8種について鰭と筋肉の炭素・窒素同位体比の関係について検証し、高い決定係数の回帰式を得ることができたため、次年度では鰭サンプルを用いた非破壊的手法を用いて、魚類群集を構成する各魚種の栄養段階や食性の幅を推定することが期待される。遺伝的分析についても、高感度かつ変異性の高いマイクロサテライトDNAマーカ―が共同研究者によって開発されており、このマーカーに基づいて河川流程に沿った遺伝的集団構造の把握が期待される。
次年度が本課題の最終年度であることを踏まえ、以下の方策で本課題を推進する。1)河川工作物が魚類群集に及ぼす影響評価:河川工作物が連続的に出現する河川流程を対象として、魚類群集の組成および各魚種の食性について、工作物上下区間での比較をおこなう。河川工作物の上下区間の魚類、水生昆虫および藻類の炭素・窒素同位体比に基づいて同位体マップを作成し、魚類群集を構成する各魚種の栄養段階や食性幅を推定し、ダムを含めた河川工作物の上下区間で比較する。2)河川工作物が底生魚類の遺伝的多様性に及ぼす影響評価:高感度のマイクロサテライトDNAマーカーを用いて、河川流程に沿ったカジカ大卵型個体群の遺伝的集団構造を明らかにする。3)河川工作物が底生魚類の移動に及ぼす影響評価:前年度に引き続き、PITタグを用いたカジカ大卵型個体の河川内移動および河川工作物間の移動の追跡をおこなう。また本種の死亡個体をふくむサンプルから得られた耳石を基にして、年齢査定および成長解析をおこなう。4)河川工作物が魚類群集に及ぼす影響の把握と保全の策定:得られた成果を基にして、河川工作物が魚類群集に及ぼす影響を行動、生態、安定同位体比、遺伝子などの複数の側面から多面的に総合評価を行い、それに基づく具体的な保全策の構築・提案をおこなう。またこれまでに得られた知見を、論文等の媒体により積極的に公表していく指針である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 2件)
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