研究課題/領域番号 |
16H02967
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
濱 健夫 筑波大学, 生命環境系, 教授 (30156385)
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研究分担者 |
稲垣 祐司 筑波大学, 計算科学研究センター, 教授 (50387958)
大森 裕子 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80613497)
小杉 如央 気象庁気象研究所, 海洋・地球化学研究部, 研究官 (20553168)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 微生物炭素ポンプ / 海洋酸性化 / 難分解性溶存態有機物 |
研究実績の概要 |
海洋バクテリアにおる難分解性溶存態有機物生成機能に対する、海洋酸性化の影響を評価するため、自然美生物群集を用いた培養実験を実施した。実験は、昨年度秋から開始し、本年度春まで継続した。二酸化炭素濃度は、現在を想定した400 ppm、および2倍の800 ppmの2段階とした。得られた試料はガラス繊維濾紙により濾過し、溶存態有機物試料を得た。 本年度は、培養開始3ヶ月以上の培養期間において得られた試料の処理、および懸濁態有機炭素量の測定を行った。また、バクテリア群集組成について、ゲノム情報を通した評価を実施した。 光合成により生産された懸濁態有機炭素濃度は、400および800 ppmの条件下において、実験開始90日目では67および56 μgC/L、180日後にはそれぞれ30および28 μgC/Lに減少した。これらの値は、実験開始時に生産された1,160 μgC/Lの5%(90日目)および2.5%に相当した。この結果は、光合成で生産された有機物が懸濁態として残存する割合が少ないことを示している。 細菌群集のゲノム分析の結果、実験開始後30日までは、海洋の主要なバクテリアグループであるproteobacteriaが、全バクテリアの20~30%を占めた。30日目では、酸性化条件下においては通常条件下に比較して、Alphaproteobacteria綱の占める割合が高かったのに対し、Gammaproteobacteria綱およびFlavobacteria綱の割合が低下していた。Alphaproteobacteria 綱が酸性化条件下で高い傾向は、90日および180日目においても確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.異なった二酸化炭素条件下での180日にわたる長期培養実験を、予定通り遂行することができた。特に、有機物の分解に伴い生ずる二酸化炭素が、設定した二酸化炭素濃度に影響を与える可能性があるため、400および800 ppmの二酸化炭素を含む純空気(窒素+酸素)を、高い頻度でバブリングを行った。二酸化炭素の測定結果により、この処置の有効性が確認された。 2.バクテリア現存量の少ない90日および180日後において得られた試料についてもゲノム分析を実施した。核酸の複製等に工夫を加えることにより、通常条件および酸性化条件におけるバクテリア群集組成を明らかにすることができた。バクテリア群集組成に対する酸性化の影響に関しては、現在のところ、国際的にも得られている情報は少なく、貴重な結果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
1.実験開始30日目以降に得られた溶存態有機炭素試料について、有機炭素濃度および13C同位体比の測定を実施する。試料の分析に際して、比較的長時間の処理を要する海水試料の脱塩作業については、現在試料の50%程度について終えており、本年度前半には、分析を終了する予定である。 2.上記の溶存態有機炭素に関する情報を踏まえて、通常および酸性化条件下において、植物プランクトンの光合成産物が難分解性溶存態有機物として残存する効率(微生物炭素ポンプ効率)を比較する。これにより、微生物炭素効率に与える海洋酸性化の影響を評価、議論する。 3.さらに、全海洋の光合成生産量等の情報を加味することにより、バクテリアにより生成される難分解性溶存態有機物量について、グローバルスケールで推定を行うとともに海洋酸性化の影響を評価する。 これらの結果は、国際学会(沿岸・河口科学会議)において発表を行うとともに、論文をまとめ、Estuarine, Coastal and Shelf Science誌に投稿を行う。
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