研究課題/領域番号 |
16H02968
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
木村 浩之 静岡大学, グリーン科学技術研究所, 教授 (30377717)
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研究分担者 |
木庭 啓介 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (90311745)
光延 聖 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (70537951)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 微生物 / 地下圏 / 脱窒 / メタン生成 / 発酵 / 物質循環 / 地下水流動 / 地殻変動 |
研究実績の概要 |
付加体は、海洋プレートが大陸プレートの下部に沈み込む際、海洋プレート上の海底堆積物が大陸プレートの側面に付加してできた厚い堆積層である。付加体は、日本、台湾、インドネシア、トルコ、ペルー、チリ、ニュージーランドなど全地球規模において分布域を見ることができる。また、付加体の堆積層は海底堆積物に由来することから、多くの有機物を含んでいる。一方、付加体の深部帯水層には、地熱によって温められた地下温水と天然ガス(主に、メタン)が蓄えられている。これまでの研究において、西南日本の太平洋沿岸の付加体が分布する地域に構築された温泉用掘削井を介して、深部帯水層に由来する地下温水と天然ガスを採取し、付加体の深部地下圏におけるメタン生成メカニズムが解明されてきた。一方、付加体の深部帯水層の天然ガスには、メタンに加えて窒素ガスも含まれるが、その生成メカニズムは明らかになっていない。土壌や湖沼の堆積物、海底堆積物といった表層環境におかる微生物脱窒および窒素ガス生成についての研究例は数多く存在するが、深部地下圏での脱窒および窒素ガス生成に関する知見はほとんどない。 平成29年度は、付加体の深部帯水層に含まれる地下温水の起源を明らかにすることを目的として、地下水サンプルの酸素・水素安定同位体比測定を試みた。その結果、静岡県中西部および沖縄本島の付加体が分布する地域の深部地下圏には、天水(雨水)の影響を受けた帯水層と海水の影響を受けた帯水層が存在することが示された。また、地下温水に含まれる微生物群集を対象とした遺伝子解析および蛍光in situハイブリダイゼーションによる特定微生物種の可視化を行った結果、付加体の深部帯水層に生息する微生物群集には発酵細菌およびメタン生成菌に加えて、概ね10~25%の割合で脱窒細菌が含まれることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
静岡県中西部および沖縄本島の付加体が分布する地域に構築された温泉用掘削井を調査し、地下温水と天然ガスを採取した。次に、付加体の地下水流動モデルを構築するために、地下温水の酸素・水素安定同位体比を測定した。その結果、付加体の深部地下圏には、天水(雨水)の影響を強く受けた帯水層と海水の影響を強く受けた帯水層、性質の異なる帯水層が存在することが示された。 また、地下温水に含まれる硝酸イオンおよび亜硝酸イオンの窒素安定同位体比測定も試みた。その結果、ほとんどのサイトにおいて地下温水に含まれる硝酸イオンおよび亜硝酸イオンの濃度が非常に低いことが明らかになった。現在、地下温水に含まれる硝酸イオンおよび亜硝酸イオンの濃縮作業を試みている。 一方、窒素ガスを生成する脱窒細菌を検出・定量する目的で、地下温水に含まれる微生物群集の遺伝子解析および蛍光in situハイブリダイゼーションによる微生物細胞の可視化を試みた。濾過フィルターに濃縮された微生物群集から全 DNA を抽出した。そして、16S rRNA 遺伝子のV3-V4領域をPCR増幅したのち、次世代シーケンサーを用いたシーケンスを行った。その結果、微生物群集には水素ガスと二酸化炭素を生成する水素発生型発酵細菌および水素ガスと二酸化炭素からメタンを生成する水素資化性メタン生成菌が優占することが示された。また、窒素ガスを生成する脱窒細菌も微生物群集の概ね10-25%の割合で含まれることが示された。また、脱窒細菌を対象とした蛍光in situ ハイブリダイゼーションにおいても、同様の結果が得られた。 一連の研究成果を英語論文にまとめ、国際学術雑誌 "Microbes and Environments"に投稿し、2018年3月に受理された。このように研究は、概ね順調に進んでおり、研究成果も上がっている。
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今後の研究の推進方策 |
九州南東部の付加体に着目し、深部帯水層に由来する地下温水および天然ガスの採取、各種化学分析を実施する。また、地下水の酸素・水素同位体比測定を行い、地下温水が天水(雨水)に由来するのか、海水に由来するのか、マグマ水に由来するのか、検証する。さらに、ガスクロマトグラフを用いて天然ガスに含まれる窒素ガス、メタン、二酸化炭素、アルゴンの定量を行い、そのガス組成を明らかにする。そして、微生物脱窒の指標となるN2/Ar比を決定し、窒素ガスの起源を推定する。 さらに、地下温水に含まれる脱窒細菌を対象とした嫌気培養と微生物脱窒ポテンシャルの測定を行う。温泉用掘削井を介して地下温を採取し、栄養基質を添加したのち、地下温水に含まれる微生物群集の嫌気培養を試みる。そして、亜酸化窒素および窒素ガスの生成速度を測定するとともに、各種脱窒細菌の脱窒ポテンシャルを明らかにする。加えて、付 加体の深部帯水層にて重要な脱窒代謝経路を特定する。具体的には、嫌気状態を保ちながら地下温水をバイアルビンに注入する。バイアルビンに採取された嫌気性地下水に有機基質 および硝酸イオン(または亜硝酸イオン)を添加した従属栄養脱窒細菌を対象とした嫌気培養、メタンと硝酸イオンまたは亜硝酸イオンを添加した脱窒を伴う嫌気的メタン酸化細菌を対象とした嫌気培養、アンモニウムイオンと亜硝酸イオンを添加したアナモックス細菌を対象とした嫌気培養、水酸化鉄と硝酸イオンまたは亜硝酸イオンを添加したフェアモックス細菌を対象とした嫌気培養をそれぞれ試みる。24時間毎にバイアルビンのヘッドスペースからガス試料を採取し、ガスクロマトグラフを用いて亜酸化窒素および窒素ガスの生成量を測定する。そして、嫌気性地下水に含まれる各種脱窒細菌のポテンシャルを明らかにするとともに、脱窒速度を決定する。
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