研究実績の概要 |
付加体は、海洋プレートが陸側プレートの下部に沈み込む際、海底堆積物が陸側プレートの側面に付加してできた厚い堆積層である。これまで西南日本の太平洋側に分布する付加体に構築された温泉用掘削井を介して深部帯水層に由来する地下温水と温泉付随ガスが採取され、温泉付随ガスに含まれるメタンの生成メカニズムが明らかにされてきた。一方、付加体の深部帯水層に由来する温泉付随ガスにはメタンに加えて窒素ガスも含まれるが、その生成メカニズムについては研究例がない。表層環境の微生物脱窒および窒素ガス生成についての研究は数多く行われてきたが、深部地下圏での微生物脱窒や窒素ガスの生成メカニズムに関する知見はほとんどない。 2019年度は、付加体および海産性堆積層が分布する地域に構築された深度800~1,500メートルの温泉用掘削井を介して、嫌気性の地下温水を採取した。そして、地下温水に有機栄養基質および硝酸を添加した嫌気培養を試みた。24時間毎に培養瓶のヘッドスペースからガス試料を採取し、ガスクロマトグラフを用いてメタン、亜酸化窒素、窒素ガスの生成量を測定した。その結果、メタン及び窒素ガスの生成速度を算出することに成功した。また、メタン生成ポテンシャルに加えて、微生物脱窒(窒素ガス生成)の高いポテンシャルも示された。さらに、メタン生成速度と窒素ガス生成速度を比較することにより、深部地下圏でのメタン生成菌と脱窒細菌が有機基質の利用において競合している可能性を示すことができた。加えて、高速での窒素ガス生成が観察できた培養系から微生物群集の全DNAを抽出し、脱窒機能遺伝子(nirKおよびnirS)の解析を行った。そして、深部地下圏での窒素循環における微生物群集の高いポテンシャルを示すことに成功した。付加体の深部帯水層における窒素ガス生成に関する研究成果は、現在、学術論文にまとめている。
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