研究課題/領域番号 |
16H02969
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研究機関 | 大分県立看護科学大学 |
研究代表者 |
市瀬 孝道 大分県立看護科学大学, 看護学部, 教授 (50124334)
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研究分担者 |
牧 輝弥 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (70345601)
小林 史尚 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (60293370)
吉田 成一 大分県立看護科学大学, 看護学部, 准教授 (40360060)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイオエアロゾル / 有害微生物種 / 粒子状物質 / 由来と発生地 / 呼吸器影響 |
研究実績の概要 |
能登半島上空(高度1000m~3000m)において、係留気球およびヘリコプターを併用し大気観測を実施し、中国大陸から越境輸送される黄砂・汚染粒子を採取した。粒子試料を微生物分離用の培地に接種し、数日間培養した結果、全300株の微生物株が分離できた。分離株のITS領域(真菌の分類指標)の核酸塩基配列を系統分類学的に解析したところ、慢性咳嗽原因菌のキノコ菌、枝枯葉病のカビや腐敗・気管支炎の原因となるクロカビなどの有害種と分離株の一部が近縁になった。有害種と考えられる5株を液体培地で培養した後、検体を遠心分離で集め、1%ホルムアルデヒドで固定し生体影響評価試料とした。この真菌の単一及び黄砂との複合曝露をヒト気道上皮へ行い炎症反応を調べたが炎症反応は誘導されなかった。動物実験では微生物のマウスへの曝露量を検討した。5種の真菌の中からレキソホラ(Lecythophora sp:L.sp)を選び、BALB/cマウスにL.sp単一及び黄砂との複合曝露を行った。この真菌の1回投与量を2μgと8μgとし、これに360℃で加熱滅菌した黄砂0.1mgを2週間間隔で4回経気道曝露して、L.sp単一と黄砂との複合曝露時における肺のアレルギー炎症を比較した。L.sp単一曝露では2μgより8μg投与の方が著しく肺のアレルギー炎症を誘導した。L.sp 2μg+黄砂0.1mgでも著しくアレルギー炎症が悪化し、増悪レベルはレキソホラ8μg単一曝露時のレベルに等しかった。L.sp 8μg+黄砂では肺のアレルギー炎症はL.sp 8μg単一曝露より若干減弱しており、黄砂を添加したことによる増悪作用は見られなかった。L.sp 8μg+黄砂曝露では毒性が強く、逆に免疫抑制が起きたと考えられた。真菌+黄砂との複合曝露は真菌2μgが適量で、真菌単一曝露では4~5μgが適量であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これ迄にサンプリングした黄砂エアロゾルから5種の真菌を分離・培養し、概ね同定することができた。細胞培養実験では、ヒト由来の気道上皮細胞に対して真菌は炎症反応を起こさないことが分かった。そのため、抗原提示機能やToll様レセプター・デクチン系の自然免疫が発達しているマクロファージ系の細胞を使用した方が影響評価には適切かも知れない。動物実験では真菌の一種のレキソホラと黄砂をマウスへ経気道曝露し、真菌単独投与時と真菌+黄砂曝露時の肺のアレルギー炎症発現量を調べ、今後に予定している種々微生物の比較曝露実験の曝露量を決めることができた。また、平成29年5月6~8日に大規模黄砂があり、能登上空で黄砂エアロゾルを採取することができた。多くの微生物種が採取されることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は自然免疫系が発達しているマクロファージ系の細胞に黄砂エアロゾルから分離された5種の真菌と放線菌等を曝露して影響評価を試みる。動物実験では、真菌レキソホラの実験で決定した微生物曝露量に従って、BALB/c系マウスに5種の真菌と黄砂を曝露し、真菌単一曝露時のアレルギー炎症誘導の強さと黄砂を添加した時のアレルギー炎症増悪作用を比較し、真菌のアレルギー誘導能と複合曝露時の増悪度ランキングを決定する予定である。また、平成29年5月6~8日に黄砂エアロゾルから微生物を分離・培養、同定し、これから得られる微生物種についても平成30年にマウス曝露実験を行い、黄砂付着微生物種(主に真菌)の肺のアレルギー増悪のランキングを決定する予定である。
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