研究実績の概要 |
Tris(1,3-dichloro-2-propyl) phosphate (以下TDCPP) や tris(2-chloroethyl) phosphate (以下TCEP)などの塩素を含む有機リン酸トリエステル類は、難分解性で蓄積性もあり、種々の毒性を有する。我々が世界で初めて単離に成功した含塩素有機リン酸トリエステル類分解菌Sphingomonas sp. TDK1 株とSphingobium sp. TCM1 株に存在する初発分解酵素ホスホトリエステラーゼ(HAD)の発現調節機構と分解経路下流酵素をタンパク質レベル、遺伝子レベルで詳細に解析し、分解システムの全容を明らかにするとともに、分解システムの強化をはかり、当該化合物を含む廃水処理や環境保全・修復への応用技術の開発等に必要な基礎を築くことが本研究の目的である。TCM1株を用いて令和元年度に得られた主な結果を以下に示す。 (1)昨年度は、His-tagを用いた大腸菌発現系を構築したが、今年度はPDEの補因子である2価金属に影響を及ぼさないとされるStrepタグを用いた発現系の構築を行った。Strepタグ融合PDEの大腸菌中で大量発現には成功したが、その無細胞抽出物における活性は野生型の組換え酵素と比較し、著しく減少していた。培養時、菌体破砕に補因子である亜鉛を添加した場合の活性についても検討したが、活性は回復しなかった。 (2)本酵素の構造的知見を得るため, 過去に推定されている金属配位残基の中でも酸性アミノ酸残基に着目し, 3つの変異型PDE発現系を構築した. D68A変異型PDEは野生型PDEと同程度の活性が確認され, 金属配位に重要な役割を担っていないことが明らかになった. 一方でE135A, D260A変異型PDEは活性が著しく低下し, 本酵素の金属配位に重要な役割を担っていると考えられた.
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