研究課題/領域番号 |
16H02981
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
森 利之 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 上席研究員 (80343854)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 極微量貴金属酸化物蒸着 / 少量典型元素酸化物蒸着 / 固体酸化物形燃料電池 / 中温域動作 / 界面欠陥構造 / アノード |
研究実績の概要 |
本研究では、本課題提案者がこれまで培ってきた、バルク及び界面欠陥構造設計による化学機能創製研究成果を基に、従来からなされているカソード表面・界面の設計によるのではなく、アノード内電極活物質と酸化物固体電解質間の界面に新規な活性サイトを設計することで、革新的高性能SOFCデバイスの作成を行うことを目的とした。 昨年度までに、10ppmから100ppm以下という極微量のPtOx、RhOx、RuOx又はPdOxを、Ni-安定化ジルコニア・アノード上に蒸着したのち水素還元することで、活性なPt2+種やRh3+種などをこのアノード層中に広く拡散させ、界面に新規な活性サイト を形成させることに成功し、700℃の動作温度において、SOFC単セルの大幅な発電性能向上を確認した。また、アノード過電圧測定及びカソード過電圧測定結果から、この性能向上効果は、アノード側の活性向上が主たる要因であることも明らかにした。 この性能向上の原因を考察する目的で、TEM観察と、その観察結果をもとにした表面欠陥構造シミュレーションによる活性サイトのモデリングにより、アノード層内Ni表面に残存する酸素原子、格子欠陥及びPt2+などの活性種からなる欠陥会合クラスターが、安定化ジルコニアに隣接するNi表面に疑似蛍石表面を形成し、この表面領域が性能向上に大きな役割をはたすという結果をえた。 さらに、Pt2+やRh3+と類似のイオン半径を有するFeカチオンやMnカチオンを用いることで、Pt2+やRh3+を使用せず、同様な性能改善効果を得る取り組みを実施したところ、約0.2wt%といった微量のFeOxやMnOxのアノード層表面への蒸着・水素還元処理により、これまでと同等の性能改善効果がえられた。 本年度の成果から、さらなる性能改善を可能にする新規活性サイト設計の可能性も示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、極微小量の白金酸化物や白金族金属酸化物のアノード層上への蒸着・水素還元処理による発電性能改善効果が確認できたことに加えて、PtOx蒸着・水素還元処理を行ったSOFC単セルの700℃における100時間程度の性能安定性評価でも、大きな性能低下はなかったことから、この活性サイトの安定性が高いことも分かった。 また、この活性サイトの機能を、より詳細に考察することを目的に実施した、第一原理計算では、上述の表面欠陥構造内に存在するPt2+やRh3+といったカチオンの周囲では、吸着分子の表面拡散が容易になるという予備的計算結果も得られた。また、微細構造観察結果をもとに、実施した表面欠陥構造シミュレーションによる活性サイトのモデリングからは、アノード層内においてNi表面に残存する酸素原子、格子欠陥及びPt2+などの活性種からなる欠陥会合クラスターが、安定化ジルコニアに隣接するNi表面に疑似蛍石表面を形成し、この表面領域が性能向上に大きな役割をはたすという結果がえられたことから、Ni表面上に形成された疑似蛍石表面においても、酸素の早い表面拡散と、燃料電池アノード反応である水分子生成が、容易に起こることで、高い性能向上効果が得られたという示唆を得た。 これらの結果をもとに、約0.2wt%程度のFeカチオンやMnカチオンを有する微量のFeOxやMnOxをアノード層上に蒸着し、水素還元処理を施したところ、本研究における極微少量のPtOxやRhOxの蒸着・水素還元処理と同等レベルの性能改善効果を確認することができた。 この結果は、本研究により仮定した活性サイトモデルの妥当性を示唆する結果であると考えられたことから、このモデルの精度をあげることで、さらなる革新的高性能中温作動燃料電池創製を可能にする、アノード層内新規活性サイト設計の道筋も明らかにできる可能性が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、前年度までに構築してきた活性サイトモデルを、さらに高度化する目的で、連携研究者とともに、小規模計算ながら第一原理計算手法を用いた表面欠陥サイト周囲の吸着酸素や吸着水素の表面拡散現象に関するモデリングをすすめることに加え、新たに見出した微量典型元素酸化物の蒸着・水素還元処理による発電性能向上効果の原因を掘り下げる目的で、アノード表面・界面の微細構造をこれまでと同様、慎重に精査することで、貴金属酸化物の還元により得られた活性な白金カチオン種または白金族金属カチオン種を用いてしか得られていなかった、高い性能改善効果が、資源豊富な典型元素カチオン種を含む活性サイト創製によっても得られた理由についての考察を行う。こうした一連の検討を行うことで、従来は単に活性を下げる働きしかないと思われていたNi表面の残存酸素原子や、格子欠陥からなるアノード層内界面における非平衡欠陥を有効に活用し、飛躍的性能改善につなげる新たな活性サイト設計法をつくり、この手法を用いて、中温域において革新的高性能を発揮するSOFCデバイスの創製を行うことで、提案の妥当性を示す。 また、微量典型元素酸化物蒸着・還元処理効果のなかで、もっとも実用性の観点からも有望と思えるいくつかの候補を、アノード支持薄膜燃料電池の高性能化に応用することで、得られた成果の社会実装化にも取り組む。 加えて、社会実装化では、性能安定性の確保も重要な課題となることから、すでに昨年度、予備的に検討をすすめてきた、アノード層内Ni粒成長の抑制効果と、アノード高性能化をあわせて可能にする、助触媒の検討を本格化させることで、「高い性能と優れた性能安定性をあわせもつ」、中温域動作SOFCデバイスの創製のための道筋を明確にするとともに、その考えかたが妥当であることを、作成したSOFCデバイスの性能評価試験結果から示す。
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