研究課題
本年度はイエネコのin vivo PCBs曝露試験を実施してPCBsとOH-PCBsの体内動態を解析するとともに、甲状腺ホルモン濃度および血清中のメタボロームを分析することでPCBs曝露に伴う生体内変化を検証した。イエネコへ曝露試験は曝露群(オスn= 4)にPCBs 12異性体(各異性体: 0.5 mg/kg)、対照群(オスn= 4)にはコーン油を腹腔内投与し、曝露後は経時時間毎に血清を採取し分析した。PCBs曝露群ではアミノ酸、アミン等を含む122種のメタボロームが有意な変動を示した。これらメタボロームのパスウェイを解析した結果、糖分解・糖新生、ペントースリン酸回路、ヒスチジン代謝系、プリン代謝系等の中心炭素代謝に関連するメタボロームが減少しており、PCBs・OH-PCBs曝露に伴うこれらの代謝経路の抑制が示唆された。変動の見られたメタボロームと血清中PCBs・OH-PCBs濃度との相関をMaximal Information Coefficient (MIC)を用いて解析した結果、PCBsでは20種、OH-PCBsでは19種の代謝物で寄与率が >0.4を示した。とくに寄与率の高かったメタボロームに注目すると、抗酸化物質である酸化型グルタチオン(GSSG)がPCBs濃度と高い寄与率を示し、OH-PCBs濃度に対してはペントースリン酸経路に関わるSedoheptulose 1,7-bisphosphate(SBP)が高い寄与率を示した。また、GSH、GSSG共に曝露群で有意に減少していたことから、PCBs曝露により酸化ストレスが増大し、中心炭素代謝も抑制された結果、GSSGからGSHへの還元能力が低下するとともに、グルタチオン自体の生産量も低下したことが推察された。血清中甲状腺ホルモン濃度を分析した結果、曝露群とコントロールで有意差は見られなかった。
1: 当初の計画以上に進展している
28年度の研究計画では、ネコのin vivo PCBs曝露試験を実施し、1) 体内分布と蓄積特性の解明、2) 血清および臓器中メタボロームの解析、3)甲状腺ホルモンの分析と影響評価の課題を計画していたが、これら概ね予定していた研究を実施することができ、PCBs曝露によるCYPsを介した酸化ストレスの発現と中心炭素代謝への抑制影響を明らかにすることができた。その一方で、LC-MS/MSを用いて甲状腺ホルモン濃度(総T4,T3)を詳細分析した結果、計画時の予想に反して、PCBs曝露による甲状腺ホルモン濃度への影響は見られなかった。このメカニズムに関しては今後の詳細な解析が必要となるが、ネコ血清中に残留する代謝物のOH-PCBsを分析した結果、代謝生成したOH-PCBsは3,4塩素を持つ低塩素体であったため、これらのOH-PCBsが血中で甲状腺ホルモン輸送タンパクに対して結合能を示さなかったことが推察された。今年度はさらにTSHおよび遊離型甲状腺ホルモン(Free T4, T3)の分析に取り組むことで、より詳細な甲状腺ホルモンへの影響のメカニズムを解析することができると考えられる。
1) 甲状腺ホルモンの分析と影響評価: 甲状腺刺激ホルモン(TSH)レベルを測定し、PCBsおよびOH-PCBs曝露による影響を検証する。さらに、分析の難しい遊離型甲状腺ホルモン(Free T4, T3)に及ぼす影響も明らかにし、甲状腺機能亢進症など甲状腺機能障害との関連性を統計学的手法により解析する。本研究グループはすでに液体クロマトグラフタンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いた野生生物の血清中の総・遊離甲状腺ホルモン分析法を確立しており、ペット血清中の甲状腺ホルモン分析には本方法を適用する。2) 脳を対象としたプロテオーム解析: 大脳新皮質から、ミトコンドリア画分、サイトゾル画分、ミクロソーム画分を抽出する。これらの画分からタンパク質を抽出し、等電点電気泳動とSDS-PAGEを組み合わせた2DEによりタンパク質を分離する。PCBsおよびOH-PCBs曝露レベルに依存して発現レベルが変化するタンパク質をMALDI-TOF/TOF-MSにより同定し、マッピング解析を実施する。これにより、PCBs、OH-PCBs曝露によって脳内で亢進または抑制されたタンパク質を明らかにする。加えて、発現レベルが変化したタンパク質は、Western blottingにより定量する。3) ネコのin vivo PBDEs長期曝露試験: ネコ(Narc:Catus)のin vivo PBDEs慢性曝露試験を実施する。餌やハウスダスト中で高濃度蓄積が報告されているBDE209 (1 mg/kg)を毎週1回、48週間経口投与し、投与開始前および投与後4週間ごとに頸静脈から約2 mLを採血し血清を分離する。投与後 4週間ごとに尿、糞便も採取する。投与後48週間目に安楽死させ、臓器・組織を摘出し分析に供する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 9件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Marine Environmental Research
巻: 128 ページ: 124-132
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Yakugaku Zasshi
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http://kanka.cmes.ehime-u.ac.jp/