研究課題
本年度はPCBsの体内動態と水酸化代謝物による毒性影響の解明を目的として、イヌのin vivo PCBs曝露試験を実施した。PCBs・OH-PCBsの脳に及ぼす影響をタンパク質発現、代謝産物レベルで解明することを目的とし、プロテオーム解析とメタボローム解析を組み合わせたクロスオミクスによる毒性影響の評価を試みた。曝露120時間後、イヌの脳には複数のOH-PCBsの移行が確認されたが、とくに4OH-CB107、4OH-CB202の濃度は他OH-PCBs異性体より1~2桁高値であり、これらの高い脳移行性が明らかとなった。イヌ脳ミクロソームから600を超えるスポットを検出し、PCB曝露群で有意な変化を示したスポットからMALDI-TOF/TOF-MSによりタンパク質33種の同定に成功した。これらタンパク質の機能は酸化的リン酸化、疾病、代謝、細胞プロセスに関するタンパク質が主体であった。また、メタボローム解析によりPCBs・OH-PCBs濃度を反映した脳内代謝産物を抽出した結果、プロトン輸送や尿素回路に関わるメタボロームの減少が確認され、ミトコンドリアに対する毒性が強く示唆された。ATPおよびADP濃度がG2で有意に減少しており、Complexの機能低下によってミトコンドリア内膜内外のプロトン勾配が減少し、ATPの生産性が低下したと推察された。そこで、ミトコンドリア活性アッセイによりミトコンドリアの各Complex(I~V)に対する PCBsおよびOH-PCBsの毒性を評価した結果、4OH-CB107がComplex Iを除くすべての酵素活性を撹乱し、とくに、Complex III、IVを強く阻害した。これらの結果から、脳へ移行したPCBsおよびOH-PCBsがComplex III、IVを阻害することで呼吸鎖を抑制し、ミトコンドリア機能を低下させることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
H29年度は脳・肝臓を対象としたプロテオーム&メタボローム解析を組み合わせた多元的オミックス解析によるPCBsの毒性発現機構の解明を目指していたが、予定通り脳を対象とした解析は順調に進んでおり、新規性の高い結果を学会等で発表している。肝臓はメタボローム解析が終了し、現在データを解析中であり、こちらも近日中には結果を発表できる見込みである。ネコのin vivo PBDEs長期曝露試験においても予定通り終了し、北海道大学大学院獣医学研究科毒性学教室との共同研究により、ネコ(Narc:Catus)のin vivo PBDEs慢性曝露試験(曝露群: n = 3, コントロール: n = 3)を54週間に渡って実施した。投与開始前および投与後4週間ごとに頸静脈から約2 mLを採血し血清を分離する。投与後 4週間ごとに尿、糞便も採取した。また、投与後48週間目にペントバルビタールナトリウムの橈側皮静脈内投与により麻酔後、放血安楽死させ、臓器・組織を摘出した。これらの試料は、本年度にBDE209およびOH-PBDEs代謝物を分析するとともに、血清中THs、TSH、および遊離THsを分析して経時的変化を解析し、BDE209曝露によるネコへのリスクを解析する。
オミックス解析によるPCBs毒性影響評価:ネコのin vivo PCBs曝露試験による肝臓中のメタボロームおよびトランスクリプトームを解析し、、KEGG REACTION databaseやVANTEDなどを用いてパスウェイ解析を実施し、PCBs毒性影響の「包括的」な理解を試みる。ネコのin vivo PBDEs長期曝露試験による血清中PBDEsの経時変化と甲状腺ホルモンに及ぼす影響解析:経口投与期間中に血清を経時的に採取し、BDE209およびOH-PBDEs代謝物を分析するとともに、血清中THs、TSH、および遊離THsを分析して経時的変化を解析する。ネコのin vivo PBDEs長期曝露試験による血清中メタボロームの変化の解析:オミックス解析によるPCBs毒性影響評価:メタボローム解析の結果は、KEGG REACTION databaseやVANTEDなどを用いてパスウェイ解析を実施し、PBDEs毒性影響の「包括的」な理解を試みる。ネコの新鮮肝組織を用いて肝ミクロソームおよびサイトソル画分を調整し、PCBsやPBDEsの代謝実験を試みる。さらにネコの比較対象として、イヌの肝ミクロソームでも代謝試験を実施する。代謝物の生成量や異性体パターンを解析し、これら汚染物質に対する代謝能の種差を解析する。
すべて 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 8件、 招待講演 2件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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