研究課題/領域番号 |
16H02998
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
上中 弘典 鳥取大学, 農学部, 准教授 (40397849)
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研究分担者 |
松本 晃幸 鳥取大学, 農学部, 教授 (60132825)
伊福 伸介 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (70402980)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 未利用バイオマス利用 / きのこ栽培廃菌床 / ナノファイバー / 持続可能システム / 植物 / 食品 / きのこ |
研究実績の概要 |
きのこの菌床栽培の際に大量に生じる廃菌床は利用用途が無く、廃棄物として処理されているが、豊富に含むセルロースとキチンを利活用できれば、持続可能な資源利用システムが構築可能であると考えられる。セルロース、もしくはキチンをナノファイバー化して製造できるバイオナノファイバーには、農業分野と食品分野に貢献できる機能が備わっている。本研究では、「きのこ栽培廃菌床から製造したバイオナノファイバーの農業・食品分野での利用をベースとした持続的な資源利用システムの構築」を最終目標とし、バイオナノファイバーに関するこれまでの研究成果と独自のナノファイバー化技術を活用した研究を、農工連携の異分野融合研究により展開した。 きのこ栽培廃菌床由来バイオナノファイバーについては、シイタケを栽培した後の廃菌床を原料に製造し、その物性の評価を行うことで、高結晶性のセルロースとキチンから成るだけでなく、βグルカンも含むことを明らかにした。また、本ナノファイバー複合体を用いて不織布を作成し、その物性を評価した結果、キチンもしくはセルロースナノファイバーと比較して優れた力学的特性を備えていることも明らかになった。得られたきのこ栽培廃菌床由来バイオナノファイバーについて、農業と食品分野で既に明らかにしている機能を指標に評価を行った。小麦粉生地への添加では、生地強度の強化効果は確認できなかった。しかしながら、植物に処理することで、キチンもしくはセルロースナノファイバーよりも有意に高いエリシター活性と病害抵抗性が誘導されることが明らかになった。今後はきのこ栽培廃菌床から効率的にナノファイバーを製造する方法を確立すると共に、植物ときのこを用いた機能評価を引き続き実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初時間がかかると予想された「きのこ栽培廃菌床由来バイオナノファイバーの製造技術開発」については、昨年度にキチンナノファイバーとセルロースナノファイバーの混合物が得られることが明らかになっていた。本年度はキチン含量が最も多いと見積もられたシイタケの廃菌床の粉末を脱脂し、Wise法に従ってリグニンとヘミセルロースを除去し、得られた抽出残渣の水懸濁液を石臼式磨砕機で処理して粉砕することで得ることができた。粉砕物は水中に均一に分散しており、電子顕微鏡によりナノサイズの長繊維の形状が確認できた。得られたナノファイバーは高結晶性のセルロースとキチンから成り、他にβグルカンも含むことを特徴としていた。このナノファイバー複合体から成る不織布は優れた力学的特性を備えていた。 得られたきのこ栽培廃菌床由来バイオナノファイバーについて機能評価を行った結果、小麦粉生地への添加試験については、キチンもしくはセルロースナノファイバーで見られた生地強度の強化効果は観察されなかった。植物を用いた評価も実施した結果、きのこ栽培廃菌床由来バイオナノファイバーを処理したシロイヌナズナにおいて、病害抵抗性誘導能の指標となる活性酸素種の顕著な生成が観察された。また、アブラナ科黒すす病菌に対する抵抗性も有意に向上していることも明らかになった。興味深いことに、本ナノファイバーはほとんどキチンを含んでいないにも関わらず、同量のキチンナノファイバーよりも明らかに強い病害抵抗性が誘導された。また、シイタケの菌床栽培時に添加した場合、キチンもしくはセルロースナノファイバーを添加した場合と同様に、収量の増加が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の根幹を成す「きのこ栽培廃菌床由来バイオナノファイバーの製造技術開発」が概ね確立できたので、今後は機能をもつキチンが多く含まれるナノファイバーが得られるよう、供試する廃菌床の種類や製造工程に関して検討を行う。得られたきのこ栽培廃菌床由来バイオナノファイバーについては、本素材の有効性を証明するために、農業・食品分野での機能評価を継続して行う。具体的には、キチンナノファイバーとセルロースナノファイバーについて既に明らかにしている機能である、植物の病害抵抗性誘導能と成長促進効果、きのこの成長促進効果、および穀類粉食品の食感に関しての評価を行う。 「きのこ栽培廃菌床由来バイオナノファイバーの製造技術開発」と本素材の物性と機能に関しては新規なものなので、特許出願や研究発表を行っていく予定である。また、昨年度得られたキチンナノファイバーとセルロースナノファイバーの小麦粉生地への添加効果に関する成果については、学術論文として査読付きの学術雑誌に掲載された。
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